2019 Fiscal Year Research-status Report
内因性代謝物の血中濃度恒常性を制御する肝臓機能を記述する数理モデルの構築
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19K22487
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 洋史 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (80206523)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 代謝 / 内因性小分子 / 肝臓 / 代謝ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトを含む多くの哺乳類において、生命維持に必要不可欠な生体高次機能の一つである「小分子代謝物の血中濃度恒常性維持システム」に関して、外部環境の変化に対する応答性などのシステム特性を包括的・定量的に理解するためには、数理モデルを用いたシミュレーション手法の有用性が高いと考えられる。本研究では、物質代謝を最も中心的に行う臓器である肝臓に特にフォーカスして、臓器レベルの代謝ネットワークモデルの構築と、解析手法の確立を目指して検討を進めている。初年度は、現時点でヒトにおける全身の代謝反応を最も包括的に網羅している考えられるRecon3Dをリファレンス・モデルとして用い、代謝酵素の発現プロファイルと最も整合する部分ネットワーク抽出を、混合整数線形計画問題として定式化して解くアルゴリズムを構築した。INITアルゴリズムをベースとして採用し、Recon3Dを取り扱えるように改変再実装すると同時に、部分ネットワークをより柔軟に抽出できるよう、拘束条件に変更を加えた。また、Recon3Dモデルを精査した結果、一部の代謝反応が重複する箇所や、誤記と考えられる部分などが散見されたため、モデル全体をキュレーションし直し、新たなリファレンスモデルを再構築した。また、モデルに含まれる代謝経路を抽出する際に、生化学的に不自然な代謝物同士の連結が生じないように、炭素骨格の一部が受け継がれる代謝物同士の連結を定義し、モデル内の全ての代謝反応に対してこの定義を追加する修正も行った。さらに、外部環境の変化や外部からの刺激入力などに応答して、代謝酵素の発現プロファイルが変化した際に、その実測データに基づいて、代謝流束が有意に変化すると推測される代謝経路を抽出するアルゴリズムの構築を行った。外部環境の変化に応答した代謝システムの変化を、包括的に把握するための手法として、より発展させていく検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初は、臓器レベルの代謝ネットワークモデルに対して代謝流束均衡の解析を行う予定であったが、Recon3Dモデルの精査を進めていく過程で、現在までに知られている代謝反応の情報が最も包括的に集められているにも関わらず、流束均衡の条件を満たすように設定できる部分が、想定以上に狭いことが判明した。そのため、網羅性の高いゲノムスケール代謝ネットワークを利用する価値が半減してしまうと考えられた。そこで本研究の目標である、「臓器レベルの代謝システムが外部刺激などに応答してどのように変化するのか、を定量的に予測する」ことを達成するための新たな手段の考案、それを実現するアルゴリズム開発を行った。外部刺激に応答した変化を最も包括的に実測可能なのはトランスクリプトームであるため、トランスクリプトームの実測結果に基づいて、代謝流束が増加する、あるいは減少すると考えられる代謝経路を、直鎖代謝経路として抽出する手法が、非常に有用と考えた。そこで、炭素骨格が受け継がれる代謝物同士を連結した直鎖の代謝経路を抽出し、その代謝経路を媒介する代謝酵素の発現量変動の情報を集計することで、代謝流束が増加あるいは減少すると考えられる直鎖代謝経路を包括的に抽出する手法を構築した。次年度は、この手法の有用性検証を進めていく予定であり、当初の計画からはアプローチを変更したものの、ペースとしては順調に検討が進められているため、概ね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に開発した、対象臓器における代謝酵素の発現プロファイルに基づいて、その臓器において実際に稼働していると考えられる部分ネットワークを抽出する方法、および外部刺激や、外部環境の変化などに応答した、トランスクリプトーム変化の実測データに基づき、代謝流束が変化すると考えられる直鎖代謝経路を包括的に抽出する方法、という一連の手法の有用性の検証を進める。肝臓以外の臓器への適用可能性、複数の臓器を連結したモデル構築と解析への適用可能性、病態発症に伴う代謝経路変化の包括的な把握への応用などの観点で、本研究で構築した手法の有用性を証明することを目指して検討を進める。
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Causes of Carryover |
進捗状況の欄にも記載したように、当初の計画から手法を一部変更して検討を進めているため、実験的な検証を2年目に行うように変更したため。
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