2019 Fiscal Year Research-status Report
創薬・生命科学への展開を指向した短寿命高活性カルボカチオン種の制御
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19K22489
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
国嶋 崇隆 金沢大学, 薬学系, 教授 (10214975)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 光 金沢大学, 先端科学・社会共創推進機構, 博士研究員 (40782850)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | カルボカチオン / SN1反応 / カチオン発生法 / アルキル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題では、高活性な化学反応種の中でも最も制御が困難なカルボカチオンに焦点をあて、その反応を制御し、創薬科学や生命科学への応用・展開を目指す。カルボカチオンは誰もが有機化学で学ぶ一分子求核置換反応の重要な中間体でありながら、8電子則を満たさない不安定反応種のため、その制御や有機合成への応用例は極めて限られている。しかし、カルボカチオン種の高い反応性は極めて魅力的であり、通常では反応し得ない弱求核性化合物との反応も容易に進行すると期待できる。そこで、本課題ではカルボカチオン種の温和で一般性の高い発生法と安定化法を開発し、様々な求核性化合物との反応を検討することにより、医薬品などの合成に役立つ新しい官能基変換技術へと展開する。 この目的のために、今年度はカルボカチオン種の温和な条件下での発生法の開発を検討した。高反応性のカチオン種は、室温で速やかに分解したり、反応系に存在する求核性化合物と直ちに反応したりすることから、こうした求核性の共存物が全く存在しない環境下低温で発生させる方法が必要である。その結果、代表者らが開発したアルキル化剤を利用する方法と市販のアルコールから発生する方法の2種類の反応が有効であることを見出した。また、生じたカチオンを優先的に補足する捕捉剤の探索を行ったところ、期待する反応性を有する候補化合物が見つかった。これらの系を用いて実際に反応を行ったところ、不安定なアルキルカチオン種が安定に発生し、数時間その反応性を保ったまま保存可能であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の計画に沿って実験を行い、温和な条件下に進行するカチオン発生法を見出すとともに、生じたカチオンと可逆的に結合できる捕捉剤も開発できた。特に弱酸性の酸触媒存在下に種々のアルキルカチオン種を放出する反応剤や、中性条件下に温和な加熱によりPMBカチオンを放出する反応剤を開発し、論文に発表した。また、見出した系を用いて発生させたカルボカチオンを捕捉剤と混合することにより複合体を形成させたあと、その溶液を、0℃で1時間程度放置したあと、幾つかの弱い求核剤と反応させたところ、O及びCアルキル化が進行することを見出した。これはカルボカチオン種が短時間ながら安定に保存されたことを示しており、予試験段階ではあるものの期待通り当初の目的が達成されたことを意味するもので、これらの成果について学会発表を行った(コロナ禍のため中止になったが、開催成立とされている)。以上より、当初の計画どおり若しくはそれ以上の進捗状況と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
カルボカチオンは非常に不安定で、少しの置換基変化で反応性や安定性が大きく変なする。そこで今年度は、見出したカルボカチオン発生法を用いて種々のカチオン種の発生を検討するとともに、捕捉剤のチューニングを行い、カチオン種毎の発生及び捕捉のための最適条件を確立する。また、生じたカチオン種の同定や構造解析、さらに安定性試験等を行う。次に見出した条件を用いて各種O-およびC-アルキル化反応を検討する。特に通常の酸性や強熱条件下での一分子求核置換反応では、不安定で利用できないよう求核剤との反応を中性あるいは塩基性条件下に行うなど、本反応系で無ければ進行しない反応へと展開し、最終的に論文へとまとめる。また、カチオンの発生法、保存法、および捕捉剤について、特許出願を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度は早い段階で期待する捕捉剤を見出すことができたため、これを用いた条件検討を重点的に行うこととなり、そのため、同じ化合物を使用することが多かった。この化合物は比較的安価な原料から合成できるため、試薬代に余裕が出ることとなった。一方、その分次年度に多様なカチオン種や求核剤との反応を行うことになるため、当初予定より多くの試薬代金が必要となるので、次年度に使用することとなった。
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