2019 Fiscal Year Research-status Report
α-シヌクレインをモデルとした病原性アミロイドのストレイン多様性・細胞毒性の解明
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19K22539
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
田口 謙 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (20772552)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | α-シヌクレイン / アミロイド / レビー小体 / 細胞毒性 / 凝集体形成 / シヌクレイノパシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的の1つは、αシヌクレイン(aSyn)をモデル蛋白としてin silico, in vitroの実験を行うことで、病原性アミロイドの構造について汎用的な知見を得ることである。その一環として、RCSB Protein Data BaseのaSynアミロイドの構造の1つを基に、異常型プリオン蛋白の局所構造のモデルを作成し分子動力学(MD) シミュレーションで評価した。具体的には、プリオンの増殖に影響する正常多型がアミロイドの構造に与える影響を評価し、増殖への影響が合理的に説明した。この一連の実験を原稿にまとめ、プレプリント・サーバーであるbioRxivに載せ、現在は科学誌への投稿準備を進めている。 申請書に記載した、aSynのG84I置換変異体(aSyn(G84I))を用いたaSynアミロイドの研究については、申請書に記した種々の変異がG84I変異体の凝集体形成に及ぼす影響の再現性を確認した他、新たな変異も試みた。特に興味深いのは、僅か5残基のN末端の欠失変異がaSyn(G84I)の凝集体形成を阻害することだった。酵母に発現したaSynが細胞内膜構造に結合するのにN末端の数残基が重要と言う報告を想起させるもので、哺乳類細胞内では同様の機序がaSyn(G84I)の凝集体形成に寄与する可能性が示唆された。今年、正常なaSynが細胞内膜構造と結合するのにPre-NAC領域よりもN末端側が重要との報告もあり、変異の影響をアミロイドの構造と細胞内膜構造への結合の2つの視点から解釈していく必要があると思われる。 もう1つの目的である、細胞内のアミロイドの神経毒性のメカニズムの解明については、現在は強い凝集傾向があるaSyn変異体の安定発現株を作成した段階であり、今後、凝集体形成に伴う遺伝子発現パターンの変化等の評価を行っていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本計画は、α-シヌクレイン(aSyn)のMDシミュレーションで興味深い結果を示したG84I変異を持つaSyn(以下、aSyn(G84I))を培養細胞に発現させたところ、僅か1残基の置換変異にも拘らず著しい凝集形成と細胞毒性を示した事に端を発する。申請時点では、過去の文献を調べた限り同様の報告を認めず、aSyn(G84I)の凝集体形成による遺伝子の発現の変化などを評価することでシヌクレイノパシーの病態解明に役立つと考え実験を開始した。 しかしDettmerらが既に報告した、(aSyn(G84I)と同様の)細胞内凝集体や細胞毒性を示すaSynの変異体「EIV」の7つの置換変異の1つがG84Iであることが判明した。Dettmerらは変異体EIVの細胞内局在を共焦点顕微鏡や電顕などで詳細に調べており、その知見は本プロジェクトにも応用可能であると思われた。一方、aSyn(G84I)で予定していた研究の多くが変異体EIVで既に検証されており、研究計画の修正を余儀なくされた。 凝集体形成に伴う遺伝子発現パターンへの影響の評価などはDettmerらの論文にはなかったため、当初の計画通り実験を進めた。Tet-ONシステム用の発現ベクターであるTetONEにaSyn(G84I)を組込んだプラスミドの安定発現株を作成したところ、凝集体形成は見られたものの、一過性発現で認められた程の強いものではなかった事から、aSyn凝集体形成には一過性発現に伴う他の要素も寄与している可能性が示唆された。 並行して、変異体EIVの7箇所の変異からG84Iを除いた6箇所の置換変異体(aSyn(6I))は細胞上で依然強い凝集傾向と細胞毒性を確認したことから、EIV変異体の性質にはG84I変異は必ずしも必要無く、むしろ凝集傾向の強さは変異の数に影響されていると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の様に、aSyn(G84I)と類似の性質を持った変異体が他のグループにより既に報告されているが、NAC領域の僅か1残基の変異G84Iが凝集形成傾向をもたらすことは依然新たな知見であり、この変異体を用いた実験を継続していく。他グループが報告した類似変異体での結果の再現性を本研究室での変異体・実験系で検証する。具体的には、正常構造のaSynの四量体形成の生化学的評価や、凝集体の細胞内局在など細胞生物学的な検証を行う。並行して、変異aSynの発現誘導および凝集体形成に伴う遺伝子発現パターンの変化などの未だ検証されていない点について当初の計画通り実験を進める。 但し、aSyn(G84I)の安定発現株ではDoxycyclin(Dox)誘導後の凝集形成能も細胞毒性も一過性発現の場合と比べて弱く実験には不適のため、より凝集傾向の強いaSyn(6I)の使用を検討した。aSyn(6I)-EGFP融合蛋白のOpen reading frameをTetONEベクターに組み込んだ後、N2a細胞に一過性発現をし24時間以上空けた後にDoxにより発現誘導したところ、通常の一過性発現の際と同等の凝集体形成と細胞毒性が認められた。同条件ではaSyn(G84I)-EGFP融合蛋白の細胞毒性は減弱していたのとは対照的だった。そのため、aSyn(6I)変異体の安定発現株を作成して遺伝子発現パターンへの影響を評価することとした。現在、サブクローニングにより比較的高発現の安定発現株を選出しており、細胞株を確立し次第、生化学的・細胞生物学的実験を進める。 また、一過性発現に伴う凝集体形成および細胞毒性に寄与する要素の同定を試みるため、正電荷ポリマーやアミオダロン、バフィロマイシンA1などエンドソーム系の機能障害をもたらす試薬などによりaSyn(G84I)安定発現株の凝集体形成が促進されるかを調べる。
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Causes of Carryover |
他研究室から類似の研究の論文が出たことにより、当研究室での研究計画の見直しを行ったことや、新型コロナウイルスの流行などによる勤務時間・人員の制限などで予定していた実験に必要な変異αシヌクレインの安定発現株の確立が遅れたことで、遺伝子発現パターン解析のための受託実験が未施行であること、旅行が制限されたことで予定していた学会などへの参加がキャンセルされたことで、次年度使用額が生じた。 なお、今後の使用計画としては、安定発現株が確立してから予定していた遺伝子発現パターンの解析の委託や、蛋白の分析に必要な試薬や抗体の購入に用いる予定である。
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