2019 Fiscal Year Research-status Report
Genome-wide identification of double-strand break sites induced by activated estrogen receptors and Topoisomerase IIBeta
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19K22561
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
武田 俊一 京都大学, 医学研究科, 教授 (60188191)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | BRCA1 / HBOC症候群 / 乳がん / 卵巣がん / Topoisomerase IIβ / エストロゲン / エンハンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
相同組換え因子、BRCA1/2は、全ての増殖細胞でゲノム切断を修復する。BRCA1/2の機能低下がなぜ乳腺と卵巣のみ発がんさせるか不明である。本研究の目的は、この臓器選択的な発がん機序を解明することである。エストロゲン(E2)は、変異原性を持たないと考えられてきた。申請者は、この定説に反し、BRCA1欠損のある乳腺やヒト乳がん細胞(MCF-7)では、E2が強い変異原性(=ゲノム切断活性)を発揮することを見つけた(PNAS USA 2018)。エストロゲン受容体(ER)が活性化したTOP2βが切断を作り、その切断をBRCA1が再結合していた。BRCA1が欠損し再結合効率が低下すると、E2刺激後のC-MYC発現誘導が高いことも見つけた。本研究の目的は、BRCA1欠損乳がん細胞を使い、E2がゲノム切断する部位(=TOP2βのER依存的生理的触媒部位)を1,000箇所以上同定することである。 実験手法は、TOP2β認識抗体を使い、E2刺激したBRCA1欠損MCF-7細胞からDNA切断- TOP2β複合体を精製(免疫沈降)し、沈降物に含まれるDNAをDeep Sequenceして切断部位を同定する手法である。Deep Sequenceを2回実施したが、切断部位を同定できていない(現在までの進捗状況で記載)。 活性化されたERが標的遺伝子の発現誘導をする時にTOP2βが重要な働きをすることが分かっている。申請者は、E2刺激後のC-MYC発現誘導が高いこと(上記)に着目し、C-MYC遺伝子のエンハンサーがTOP2βのER依存的触媒部位であるという仮説を立てた。C-MYC遺伝子エンハンサーは、20以上のエンハンサー断片(300 - 500塩基)が1Mbase以上の領域に渡って散在し、スーパーエンハンサーと呼ばれる。そしてE2刺激後に切断が起こるエンハンサー断片を複数個見つけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】に記載したように、当初に予定した実験手法は『TOP2β認識抗体を使い(中略)DNA切断- TOP2β複合体を精製(免疫沈降)し、沈降物に含まれるDNAをDeep Sequenceして切断部位を同定する』であった。この手法は、未だ実験手法の最適化ができていない。具体的には、DNA切断-Top2β複合体以外のDNAを十分除去できていない。別の精製手法として、DNA切断- TOP2β複合体をフェノール抽出(複合体はフェノール含有溶液の中でDNAと淡白質の中間の挙動をする)して精製する手法を試みた。この手法でも、十分精製ができていない。 以上の精製の困難さを打開する為に、申請者は以下の実験を2019年度に実施した。E2刺激前後の野生型とBRCA1欠損のそれぞれのMCF-7細胞からRNAを抽出し、Deep Sequenceした。このトランスクリプトーム解析によって、エストロゲン(E2)刺激によって増加する遺伝子のmRNAやエンハンサーRNA(eRNA)を網羅的に同定できる。eRNAの量の測定から、各エンハンサーの活性化のレベルが分かる。そしてBRCA1が欠損して、E2で活性化されたTOP2βが作った切断が再結合されないと、C-MYC遺伝子のエンハンサーも含め、数千種類のエンハンサーのeRNA量がE2刺激後に増加することが分かった。この知見を根拠に、E2によって活性化されるエンハンサーが同時にTOP2βのE2依存的触媒部位でもあるという仮説を立てた。そして、この仮説がC-MYC遺伝子エンハンサーに関しては妥当であることが検証できた。 以上まとめると進捗状況は以下の2点である:(1)当初計画した実験手法は精製が十分でない、(2)eRNAの量の測定から、エストロゲン曝露時に生じるゲノム切断の位置の決定ができた。この進捗状況から「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「(2)eRNAの量の測定」をさらに発展させる。E2刺激前後の野生型とBRCA1欠損MCF-7細胞のRNA Sequenceに加えて、E2刺激前後のTOP2β欠損とBRCA1/TOP2β 二重欠損MCF-7細胞でもRNA Sequenceを行う。この実験によって、どのエンハンサーのE2依存的活性化がTOP2βを必要としているかが分かる。TOP2βを必要としているエンハンサーが、BRCA1欠損によってさらにE2依存的活性化が上昇した場合には、「エンハンサーをTOP2βが切断し、そのBRCA1は再結合できない場合にはこのエンハンサーのE2依存的活性化がさらに高まる」という推定が可能である。以上の実験から、E2曝露時に生じるゲノム切断の位置を絞り込む。 絞り込んでから当該部位にゲノム切断が実際に起こっていることを証明する為にγH2AX ChiP)を実施する。これまでにBRCA1欠損MCF-7細胞の全ゲノムでγH2AX ChiPを行なったが、ゲノム切断の位置の決定に失敗した。γH2AX ChiPの感度を高める為に、上記の、絞り込んだゲノム切断部位候補において個別にγH2AX ChiPを行う。この手法を使い、前述したように、E2刺激後に切断が起こるエンハンサー断片を複数個見つけた。この手法を使い、E2曝露時にエンハンサーに出現するTOP2β依存的ゲノム切断(=TOP2βのE2依存的生理的触媒部位)の位置を決定する。 TOP2β触媒部位であることを決定したエンハンサーについて、それぞれがどの遺伝子をE2依存的に発現制御しているか解明する。次に、BRCA1欠損時にE2依存的な発現制御が狂い発癌の原因になりうる遺伝子を、C-MYC以外にリストアップする。この研究により、BRCA1の機能低下がE2の細胞増殖刺激活性を亢進させその結果、乳腺と卵巣のみ発がんさせることを証明できる。
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Causes of Carryover |
ニューヨークでのCOVID-19の拡大により、Scott Keeney博士(NYメモリアルスローンケッタリング癌研究病院(MSKCC))との共同研究が中止になった。その為に、予定していた実験(DNA切断- TOP2β複合体を精製(免疫沈降)し、沈降物に含まれるDNAをDeep Sequenceして切断部位を同定)を中止した。繰り越した予算は、上記のRNA Sequenceに使う。
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