2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒト羊水幹細胞による子宮炎症制御を介した早産/胎児炎症反応症候群治療薬の開発
Project/Area Number |
19K22602
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 守 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (20207145)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
落合 大吾 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80348713)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
Keywords | ヒト羊水幹細胞 / 間葉系幹細胞 / 早産 / 胎児炎症反応症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,ヒト羊水幹細胞(Human amniotic fluid stem cells; hAFSC)の抗炎症作用を利用し,子宮頸管からの上行性感染により生じる早産/胎児炎症反応症候群(Fetal inflammatory response syndrome; FIRS)の予防効果や治療効果を動物モデルで検討することである. 早産/FIRSのモデル動物は,LPSを母体に投与することで作成されるが,その投与経路は腹腔内投与と経膣投与がある.今回は,より病態を反映していると考えられる経膣投与を選択した.予備実験の結果をもとに,母体に対し15μg/kgの投与量を設定,一定の割合で早産が生じることを確認した.しかし,LPSの投与時刻や製造ロットにより早産率に若干のばらつきがみられることから,投与時刻を正確に設定するとともに,同一のLPSを複数確保し,安定した結果が得られるよう努めている. その後,hAFSCによる早産の治療効果の検討を開始した.hAFSCの投与に関しては,経路(腹腔内投与,経膣投与,静脈投与)や時期(LPS投与前後),回数,細胞数など複数のパラメータが存在する.現在までに複数の個体への投与を行い,それぞれの投与効果を検討している. 興味深いことに,腹腔内に投与したhAFSCは腹腔内で肉眼的に観察可能な大きさの凝集体を形成していることがわかった.全く異なる動物モデルで,腹腔内に投与した細胞が凝集体を形成し,その凝集体から抗炎症作用を有するサイトカインが分泌されているという既報がある.本実験で得られたその細胞凝集体を腹腔内から回収し,組織染色を行ったところ,複数の細胞により構成されていることが判明した.今後,免疫組織染色やRT-qPCR法を用いて凝集体の構成細胞の性質や抗炎症性サイトカインの発現について詳細な検討を行っている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予備実験をもとに早産モデル動物の確立に成功し,hAFSCによる早産治療効果の検討を開始できている.早産率の算定にはさらなる動物実験が必要な状況であり,順次実験を行っている.投与したhAFSCが腹腔内に凝集体を形成することは,当初全く予期していなかった事象であり,hAFSCによる早産/FIRSの治療機序の解明のみならず,hAFSCの抗炎症作用そのものを解明できる可能性を秘めていると考えている. 一方で,胎児における炎症反応の評価は遅れている.当初は脳や肺など早産において傷害されやすい臓器を胎児から摘出し,炎症反応の程度を免疫組織染色やRT-qPCR法で検討することを計画していた.しかし,早産児の臓器は当初想定していたよりも小さい上に,早産により得られた児は,出生後の生存時間が短いため,生体サンプルの採取が困難な状況である.今後は,LPSの投与量を調節し,早産モデルとFIRSモデルを分けて検討を行うことで,本課題の解決を図りたい. また,切迫早産患者の羊水からのhAFSCの分離培養も遅延している.本研究に対しインフォームドコンセントを得ることができる患者が少ない上,切迫早産患者の余剰羊水が生じるタイミングが予測できないため,分離培養を適切なタイミング行うことが難しいことが原因である.今後は,分離培養に要する実験手技のフロー改善を図り,本課題の解決に努めたい.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後,本研究課題の実現に向け大きく3つの実験を遂行する予定である. まずは,すでに確立した早産モデル動物に対して複数のhAFSCの投与方法を検討し,最適な投与方法を確立する.複数回の動物実験を速やかに遂行し,早産率の算定を早期に行い,早産率の改善に寄与するか否かを明らかにする.同時に,腹腔内投与したhAFSCを追跡する実験を計画する.具体的には,hAFSCの細胞膜を親油性のシアニン系赤外蛍光色素であるXenoLight DiRで染色し,腹腔内に投与,その後経時的な変化をin vivo イメージングシステム(In vivo Imaging System; IVIS)を使用し,凝集体の形成に至るプロセスを解明する.本報告書作成時点で,既に生体透過色素によるhAFSCの染色及びIVISの使用に関する手技は確立済みであり,速やかに実験を開始することが可能な状況である. 続いて,FIRSモデルを確立し,hAFSCによる治療効果の検討する.現在のLPS投与量では,早産児が死産となってしまう場合が多いため,FIRSに関する解析ができていない.そのため,母体に経膣的に投与するLPSの量をやや減少させ,死産に至らない投与量を見出した上で,生児の炎症に関する検討を行いたいと考えている.炎症の評価は,当初の予定通り,早産により傷害されやすい臓器を中心に,免疫組織染色やRT-qPCR法,ELISA法などを用いて,多角的な炎症反応の検討を計画している. 最後に,切迫早産患者の羊水からのhAFSC樹立であるが,診察室でインフォームドコンセントが得られた患者から検体を採取し,実験室で分離培養を行うまでのプロセスの効率化を図り,実験がスムーズに行えるように改善を予定している.さらに,樹立した細胞を通常の羊水検査で得られた患者の細胞と比較することで,より効率の良い分離培養技術の開発を目指す.
|
Research Products
(20 results)