2019 Fiscal Year Research-status Report
SPOCK-1生体タンパクを応用した安全性に優れた革新的歯周病予防薬の開発
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19K22721
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西村 英紀 九州大学, 歯学研究院, 教授 (80208222)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
自見 英治郎 九州大学, 歯学研究院, 教授 (40276598)
佐野 朋美 九州大学, 歯学研究院, 助教 (50782075)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 歯肉増殖症 / 酵素活性 / SPOCK-1 / 上皮間葉転換 / カテプシン-L / TGF-β / 線維化 / 炎症性組織破壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
SPOCK-1はカテプシン-Lを含む複数の分解酵素活性を阻害するとともに、一部の癌細胞において上皮間葉転換(EMT)を誘導し、癌転移に関わることが示唆されている。先行研究においてSPOCK-1 transgenic (TG) マウスを作製した。本マウスは、歯肉の肥厚性疾患を惹起すること、本マウス歯肉においてTGF-βの発現が亢進すること、またEMTマーカーの発現変動が確認されることを見出した。 さらに、組織の線維化に関わるとされるCTGFの発現亢進も確認した。すなわち、SPOCK-1は正常組織においてもEMTを促進する可能性がある一方で、TGF-βやCTGFの発現を介して組織の修復や線維化を促進する可能性が示唆された。さらに、SPOCK-1がカテプシン-Lの活性を抑えることが判明していることから、カテプシン-L欠損マウスで見られるヒト疾患類似の歯肉肥厚もSPOCK-1の過剰発現モデルで説明できる可能性が考えられた。 in vitroの系において、組み換えTGF-βにより上皮細胞におけるSPOCK-1の発現亢進が確認された。このように、TGF-βは一般にSPOCK-1の上流に位置し、SPOCK-1発現を誘導すると考えられてきたが、マウスの系からSPOCK-1自体がTGF-βの発現誘導を逆に促進する可能性を初めて見出した。以上から、SPOCK-1は過剰な組織分解酵素反応を介した炎症性の組織破壊に対しては、逆にprotectiveに作用する可能性があることを見出した。 歯周炎による組織破壊に対してprotectiveな作用を検証するとした、本研究の導入に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題はSPOCK-1の組織分解酵素阻害作用を利用して、逆に炎症性に組織破壊を惹起する歯周炎に対して組織保護作用があるのではないかとの仮説を検証するものである。SPOCK-1 TGマウスの樹立に成功し、組織の解析を終了した。本マウスは正常に発育し、歯肉増殖症様の歯肉肥厚を呈することを確認した。さらに、組織においてTGF-β-CTGF経路を介した線維化現象が惹起されていることを確認した。本経路は通常、組織破壊に続いて観察される修復過程で誘導され、組織の再生に関わると考えられている。つまり、SPOCK-1は炎症性の組織破壊に対しては、protectiveに作用するのではないかとの当初仮説を検証する導入に成功した。 一般に薬物性歯肉増殖症病変は高度の歯肉肥厚を呈するものの、炎症性骨破壊はポケットの深さに比例しないことを経験的に観察している。この現象にSPOCK-1が関わるとすれば、少なくとも炎症性の組織破壊に対してはprotectiveに作用するとの仮説が成立する。 現在、本マウスを増殖させており、一定数数がそろい次第、以下の項目8に示す研究に用いる予定にしている。
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Strategy for Future Research Activity |
① SPOCK-1 TGマウスの実験的歯周炎の実態解明:TGマウスに実験的歯周炎(歯牙結紮性歯周炎)を惹起し、歯肉の肥厚に対して骨吸収が抑制されるか否かを検証する。実験的歯周炎についてはすでに手技をマスターしており、マウスが成長した時点で速やかに開始可能である。歯肉肥厚の程度、骨吸収の程度を数値化して度合いを、野生型マウスのそれと比較する。 ② SPOCK-1マウスの硬組織吸収量の評価:組み換えRANKLを静脈内注入し、遊離するカルシウム量から骨吸収の度合いを野生型マウスのそれと比較する。本実験の手技に関しては共同研究者の自見が精通しているため、支障はない。 ③ 組み換えSPOCK-1による実験的歯周炎の予防効果の判定:市販の組み換えSPOCK-1タンパクを入手し、結紮性歯周炎モデルマウスを用い、SPOCK-1の歯肉組織への予防投与の有無で骨吸収に差が生じるか否かを検証し、SPOCK-1による歯周炎予防効果、進行抑制効果を検証する。本実験には、正常マウスを用いる。
以上から、SPOCK-1による歯周炎予防効果を総合的に判定する。
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Causes of Carryover |
年度末(3月末)に米国で開催される国際学会において情報収集を行う予定にしていたが、コロナウイルスの蔓延に伴い学会が中止されたため、当初計上していた外国出張旅費を次年度以降に回した。上皮間葉転換に関する研究は国際的に競争の激し研究分野であり、進歩も早いと想像されるため、次年度以降積極的に情報収集を行うこととした。 一方、当初計画では時間のかかるSPOCK-1の組み換え体の作製を初年度から予定していたが、調査の結果、本標品は市販されており入手可能であること、それにより作製にかかる時間を省くことが可能で、研究の遂行がスムーズに行く可能性があることが判明したため、次年度以降に予定している組み換え体を用いた研究における組み換えタンパクの購入費用に充当することとした。
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Research Products
(2 results)