2019 Fiscal Year Research-status Report
ジェネオロジー理論を発展させた全ゲノム情報による多人数同時身元確認法の開発
Project/Area Number |
19K22758
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
玉木 敬二 京都大学, 医学研究科, 教授 (90217175)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
Keywords | DNA / 血縁鑑定 / 一塩基多型 / SNPs / ICS |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれはこれまでにDNAマイクロアレイで網羅的に一塩基多型(SNPs)を解析することで、第5度血縁でも判定が可能であることを報告した。この血縁鑑定法を、大規模災害等における身元確認に応用するため、模擬法医資料においてどの程度型判定ができるかを検討した。 DNA量を5ngから200ng(通常量)まで変化させたDNA試料において、マイクロアレイチップによってどの程度までSNPsの判定可能かを検討した。常染色体領域のみで、塩基の欠失や挿入の多型は扱わず、約17万SNPsを判定対象とした。その結果、通常検査量の10分の1の20ngであっても、SNPsタイピング成功率は全て99%を超えており、また、参照結果との一致率は分析DNA量が10ngであっても99.99%以上を示した。法医試料は陳旧なものが多く、抽出した試料のDNA鎖が切断され、断片化していることが多い。このため、DNAを1000塩基、300塩基、150塩基程度まで超音波切断した模擬変性試料から同様の検討を行った。その結果、300塩基までは90%以上のタイピング成功率を示したが、150塩基の試料では、70%程度に低下した。また、参照試料の結果との一致率も300塩基まではほぼ100%であったが、150塩基の試料では95%程度に低下した。このように模擬微量変性試料では10ng程度で300塩基程度まで変性していても、型判定が可能であることが示唆された。さらに、実際の身元確認を想定して、検体(血液、爪、歯、骨)数例からタイピングを行った。その結果、血液では全て99%以上のタイピング成功率を示し、歯が平均96%、爪が平均93.5%であったが、骨試料では41%に留まった。 また、SNPsにおいてもローカス間の連鎖を考慮した血縁鑑定ができるように、まず、STRを対象としたベイジアンネットワークによる血縁鑑定法のソフトウェアを開発した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は次世代シーケンシング(法医学分野ではMPS(massive parallel sequencing)という)によってヒトゲノム中のSNPsを判定する予定であったが、実験を進めていくうえでMPSの深刻な技術的障壁が見つかった。法医学分野においてまず標準とされるDNA検査はマイクロサテライト(STR)の型判定であるが、MPSによるSTR型判定が予想外に難航している。まず、STRの領域をPCR増幅してライブラリーを作成する際、非特異増幅によるスタターなどの非特異DNAの増加による対象シーケンス情報に対する妨害である。また、膨大なシークエンス情報源からSTR領域を切り取って型判定するソフトウェアを複数種類使用したが、STRに関するその処理能力は低く、これまでのキャピラリー電気泳動法によるSTR型との整合性がないだけでなく、同じ由来と思われる塩基配列でも切り取り方が異なり、違うアリルのように報告してしまう。 このため、判定結果の信頼性は非常に低く、MPSによる利点と考えられた同一長さのアリルの塩基配列による区別を利用したヘテロ接合度の高いSTR型システムにおけるアリル頻度調査などの作業が全く進まない状況である。国際学会においても、MPSにおけるSTRアリルの命名法について議論が進んでいるが、データベースの集積が滞っているのは命名法だけでなく、このような技術的課題が克服されていないのも原因であろうと思われる。このため、MPSによるSNPs型判定では、このような課題は少ないであろうと予想しているが、そもそも微量な資料を基本とする法医資料において、MPS自体の基本的性能が十分に追いついているかどうかの検証は必要であり、費用対効果も考慮すると、まずマイクロアレイでのSNPs検討を経た後の挑戦が最良であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究ではジェネオロジー理論をさらに発展させ、次世代シークエンシング(NGS)による全ゲノム情報から、人工知能の介在によって精度の高いハプロタイプを比較することにより、身元不明者のスクリーニングと該当家族内の複数の捜索依頼者の血縁関係が判定できるシステムの構築を目指しているが、進捗状況の欄で記載した様に、MPSの技術的障壁のために、SNPs検出にはマイクロアレイチップでの判定に変更する。しかし、到達目標や予想される成果についてはこれまでの研究計画と大きな変更はない。 今年度は模擬法医試料を用いた実践的なタイピング法の確立だけでなく、特に、解釈方法の開発のためシミュレーションを進める。公開されている日本人の膨大な一塩基多型を集積した全ゲノムデータを利用し、各染色体全体の標準ハプロタイプを推定して、これにより模擬の血縁者データベースを作成する。具体的には、ある個人を身元不明者と設定し、その血縁者のゲノムデータをコンピュータ上で作成する。この操作を繰り返し、模擬の身元不明者データベース及び擬血縁者データベースを作成する。データベース中のゲノム情報からなるべく真のハプロタイプ共有領域に近い推定ができるよう、膨大なデータの解析は全てプログラムによって行い、特に機械学習などの人工知能(AI)を介在して情報を抽出し、客観的な判定が行えるよう工夫する。 また、爪や歯などの仮想法医試料からのSNPsタイピング成功率の低いものもみられたが、型判定の精度はそれほど低下していない。このため、判定されたデータからgenotype imputationを行って未確定のSNPsのgenotypeを推定して、血縁鑑定精度の向上にどの程度貢献するか検討したい。
|
Research Products
(1 results)