2021 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の医療事故を自動予測する電子カルテシステムの開発-ディープラーニングの応用
Project/Area Number |
19K22771
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
明智 龍男 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (80281682)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
市川 太祐 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 客員研究員 (30824619)
戸澤 啓一 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40264733)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 高齢者 / 転倒、転落 / ドレーン自己抜去 / 医療事故 / ディープラーニング / 電子カルテ / ビッグデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
超高齢社会を迎え、病院内では、フレイルやせん妄等を背景とした転倒・転落、ドレーンや点滴類の自己抜去などの医療事故が多発している。これらによる身体状況の悪化は時として深刻な転帰をとり、骨折は寝たきりの最大の要因である。医療事故が発生すると、医療者は、患者の処置など多くの労力を費やすことになり深刻な負担となっている。 以上のような背景から、医療事故を予測するチェックシート等が開発されているが、精度は不十分で、実用には程遠い。例えば、メタ解析により転倒予測に関して最も高精度であることが示されたSTRATIFYスケールは、感度0.63、特異度0.71にとどまっている(Metarese M et al, J Advancing Nursing 2014)。 せん妄については、感染、電解質異常等に加え、向精神薬、オピオイド等の薬剤などが原因となる。一方、先行研究においては、個々の要因が医療事故やせん妄発現に寄与するオッズ比を算出することは可能であるが、多くの変数を組み合わせて高い精度で予測することは不可能であった。以上のような背景のなかで、申請者は、ディープラーニングに着目した。本研究では、患者の血液・生化学、バイタルデータなど電子カルテに含まれる膨大な患者情報をディープラーニングを用いて解析し、世界にさきがけ、高齢者の医療事故防止および医療者の負担軽減に資する自動予測システムを開発することも目的とする。 2020年度には、研究計画を作成し、名古屋市立大学の倫理委員会で承認を得た。電子カルテのデータを抽出し、データを解析可能な形に固定しながら、一部の変数を用いてディープラーニングにて解析を開始した。その結果、予備的な結果ではあるが、ドレーン類や点滴の自己抜去などを予測可能であることが示された。まだデータの利用が十分ではないため、今後も予測精度をたかめるために解析を継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究者の所属する医療機関には2004年から電子カルテが導入され、膨大な患者データが蓄積されており、1万5千超の転倒・転落、ドレーンや点滴類の自己抜去に関する報告がなされている。2020年度には、研究計画を作成し、名古屋市立大学の倫理委員会で承認を得た。その過程でもともとの計画と若干の変更が行われたが(対象を65歳以上にするなど)、以下の手順にて研究をすすめている。 まず、ディープラーニングによる医療事故予測モデルの構築のために、医療事故予測への有用性が想定されるデータを決定した。これらには、年齢、性別、原疾患、医療事故発生直近の血液生化学データ、バイタルサイン、薬剤などに加え、各種患者情報(意思疎通能力など)、医療者の記載したカルテデータ等が含まれている。 ディープラーニングの手法としては、医療分野で高い予測精度を達成している畳み込みニューラルネットワーク及び再帰的ニューラルネットワークを用いている。 当該医療機関の所属する地域の条例などのため、抽出したデータを施設外に持ち出すことができないため、2020年度からは、研究協力者(東京在住)であるデータサイエンティストに来院してもらい、データを解析可能な形に整えながら、予測モデルの構築を開始した。その結果、予備的な結果ではあるが、ドレーン類や点滴の自己抜去などを予測可能であることが示された。一方、新型コロナウイルス蔓延のため、その研究協力者が来院できない状態が2021年度も続いており、解析が遅延した状態で続いている。
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Strategy for Future Research Activity |
電子カルテのデータに関しては、データ構造が複雑なため、抽出方法および統合について継続的に検討している。テキストデータを含め、全体のデータを利用できるまでには至っていないが、予備的な結果からは、テキストデータを用いなくても比較的精度の高い結果が得られる可能性が示唆されており、今後も工夫しながら利活用をすすめていく。 研究計画に従い、ディープラーニングによる医療事故予測モデルの構築を継続する。本予測モデルの検証に関しては、クロスバリデーションを用いて、転倒・転落等、医療事故の内容に沿った予測モデルを構築・検証する。まず、過去のデータを予測モデルを構築するための訓練用データセットとモデルを検証するための検証用データセットの2つに無作為分割した。そして訓練用データセットを用いて、ディープラーニングにより、高いスクリーニング性能を示すアルゴリズムを構築している。なお、医療事故の有無については、データの不均衡が予想されるため、SMOTE法に基づく不均衡調整を行っている。構築されたアルゴリズムの精度を検証用データセットで検証する。検証に際しては、Receiver Operating Characteristic曲線を描いた上で、Area Under the Curve(AUC)、感度、特異、陽性反応的中率(PPV)を算出する。この構築・検証のステップを複数回繰り返し、それぞれで得られた指標の平均を用いて、最終的な予測モデルの評価結果を得る。予測モデルの評価目標は、AUC 0.8以上、感度 0.8以上、特異度 0.8以上、PPV 0.5以上とする。現時点で予備的な結果ではあるが、ドレーン類や点滴の自己抜去などを予測可能であることが示された。一方、新型コロナウイルス蔓延のため、研究協力者が来院できない状態が2021年度も続いており、解析が遅延した状態で続いているため、機会をみて集中的な解析をするなど打開策を見出したい。
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Causes of Carryover |
研究協力者(東京在住)であるデータサイエンティストに来院してもらい、データを解析可能な形に整えながら、予測モデルの構築を行っているが、新型コロナウイルス蔓延のため、その研究協力者が来院できない状態が続き解析等に遅れが生じた。それにより旅費や研究成果を発表するための費用(英文校正・論文投稿代)を繰越すこととなった。 次年度も引き続き研究協力者に来院してもらい解析等の作業を行うが、機会をみて集中的な解析をするなど新型コロナウィルスへの対策を講じる予定である。
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