2019 Fiscal Year Research-status Report
島皮質可塑性に着目した感覚記憶リハーサルによる味覚障害リハビリテーション法の開発
Project/Area Number |
19K22821
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
海老原 覚 東邦大学, 医学部, 教授 (90323013)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
Keywords | 味覚 / リハビリテーション / 舌圧 / 口腔乾燥 |
Outline of Annual Research Achievements |
認知機能正常な原因が特定できない味覚障害を自覚している患者および健常成人に、味覚リハビリテーションの同意をとり、研究を進めている。倫理委員会は味覚障害者バージョンと健常成人バージョン両方で承認され、両者の味覚リハビリテーション研究を同時並行で行っている。味覚感受性評価はろ紙ディスクによるベースライン味覚定性定量検査(テーストデスク)を行っている。4味を中央が標準となるように5段階希釈された段階的に溶液をろ紙に浸透させ舌に置き、初めて4味を認識できる濃度を検査して、味覚認知閾値を決定する。口腔状態評価は、歯の状態の評価(アイヒナー分類)、口腔乾燥の評価(柿木分類、口腔水分計ムーカス)、舌圧測定(JMS舌圧測定器)にて行っている。それぞれ良好にデータを採取している。さらにヒトの味覚情報伝達経路において、島皮質は単に末梢からの味覚情報を受けるだけでなく、そのシナプス可塑性により味覚情報想起に関与することにより、味覚の受容・認知において中心的な役割を果たしていることが示唆される研究結果を得てきた。このことより、通常短い味覚感覚記憶を、長期記憶に変換するリハーサル訓練を繰り返すことが味覚感受性回復に役立つことが実証されてきたのである。それに加え、味覚と深く関与している匂い刺激の効果についても解明した。それがメンソールによる呼吸困難抑制効果である。呼吸困難の発生機序の一つとして、大脳皮質で感受する延髄から発する換気運動ドライブと比べて、実際の換気量を大脳皮質で感受したものとの間に差が生じたときに呼吸困難が発生する。メンソール嗅覚刺激が、気流センサーを活性化して、実際の換気よりも多くの換気をしていると大脳皮質に錯覚を与える可能性を実証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を進めていることが学内で話題となり、多くの患者が紹介されるようになった。また、抗がん剤治療中の患者の味覚障害について看護師たちが病棟で問題視し、味覚についての勉強会の開催が要請され、その講師として講義を行った。それをきっかけとして、味覚リハビリテーションをがんリハビリテーションの一環としてリハビリテーション依頼してくるようになり、領域が広がりつつある。がんリハビリテーションは、患者の回復力を高め、残っている能力を維持・向上させ、今までと変わらない生活を取り戻すことを支援することによって、患者の生活の質( QOL )の向上を図るという考え方に基づいて行われる。がんになると、がんそのものや治療に伴う後遺症や副作用などによって、患者はさまざまな身体的・心理的な障害を受ける。がんリハビリテーションは、がんと診断されたときから、障害の予防や緩和、あるいは能力の回復や維持を目的に、あらゆる状況に応じて対応していくことが重要である。がんそのものによる痛みや食欲低下、息苦しさ、だるさによって寝たきりになったり、手術や抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療などを受けることによって身体の機能が落ちたり、損なわれたりすることがあり、さまざまな障害を抱えることによって、日常生活に支障をきたし、家事や仕事、学業などへの復帰も難しくなり、QOLも著しく低下する。そこで、がんになっても、これまでどおりの生活をできるだけ維持し、自分らしく過ごすことを可能とするために欠かせないものががんリハビリテーションであり、味覚リハビリテーションはそのなかでも重要な役割を果たすと医療者たちが考えるようになってきたのである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究過程においてがんリハビリテーションの重要な要素としての味覚リハビリテーションという着想を得た。今後、この方面においても研究を推進させていく予定である。さらに当初の計画の脳機能との関係についても調べていく予定である。リハビリテーションと同時に脳機能画像の解析も試みられることより、味覚障害回復の過程で生じる脳機能変化が解明される可能性がある。ひいては特発性味覚障害の原因となる脳機能そのものが解明される可能性があり、今回着目している島皮質の関りが明らかとなれば、この特発性味覚障害の原因は島皮質の機能不全であるという病態解明に繋がるものと思われる。島皮質は味覚以外にも嗅覚、内臓自律系、聴覚、体性感覚そして辺縁系の機能に深く関わり、収束した感覚情報を処理することで、感覚体験のための情動に関連した文脈情報を生み出している。したがって、島皮質機能不全は様々な感覚障害に関与している可能性があり、これまで原因不明であった様々な感覚障害が解明されていく可能性がある。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、予定していた情報収集のための国際学会参加が中止になった。次年度使用額としては国際学会参加費とさらに、コロナ感染拡大の影響をみながら、フェースリーダーという研究を進めるうえで有用な備品の購入を検討している。
|
Research Products
(8 results)