2021 Fiscal Year Research-status Report
「意識の働き」が身体運動を変容させる随意運動制御のメカニズム
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19K22866
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
阪口 豊 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (40205737)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
諏訪 正樹 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (50329661)
西井 淳 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (00242040)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 仮想的知覚 / 意識 / 注意 / 計算モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, 「意識の働き」が「無意識下の働き」を介して身体運動を変容させる脳内計算メカニズムを探究することを目的として,「仮想的身体知覚を介した教示」と名付けた技能指導に着目し,その効果を調べる行動実験とメカニズムを説明する計算モデル構築を行う.今年度の成果は以下のとおりである. 行動実験については,これまで取り扱ってきた上肢運動とは別に竹刀の素振り動作を課題とした実験を新たに行い,仮想的身体知覚を介した教示が身体運動に影響を与えることを明らかにした.また,さまざまなリズムでタッピングを行う課題において注意の向け方の違いがもたらす影響を調べ,その結果,注意条件の違いによりタッピング時の運動振幅が変化することを明らかにした. 計算モデルについては,動力学シミュレータと強化学習系を統合した学習システムを利用してシミュレーション実験を行った.ここでは,従来の強化学習が報酬として用いてきた客観的な評価量(例えば,歩行速度)に変わり,エージェント自身の感覚信号から得られる主観的な評価量(例えば,関節の動きや運動指令の大きさ)を報酬とする強化学習系を構成し,知覚にのぼる評価量に基づいて運動を行うモデルの振舞いを解析した. 一般に,身体知覚は,身体器官からの感覚信号に基づくボトムアップな処理と,脳の記憶領域に格納された身体イメージに基づくトップダウン予測のせめぎあいのなかで生まれることから.仮想的身体知覚を探究するうえでの一つの鍵は身体感覚をことばで捉えようとする認知の働きである.このことを踏まえて,野球選手が体感をことばで表現しながら身体スキルを獲得する過程,また,まちの魅力や価値を見出す能動的散歩の試み(「まち歩き」と称している)における体感の記録を行った.さらに,多様なドメインにおける体感を記述する手法としての「写真日記」の方法の精緻化およびその分析手法について検討を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
行動実験については,昨年度に引き続き,新型コロナウィルス感染症対策のため,ヒトを対象とする実験がほとんど遂行できなかったほか,大学の業務としてウィルス感染症対策に付随する種々の業務により時間を費やし,研究の進捗は遅れている.予備的な実験結果はあるものの論文化するのに十分なデータが得られていない. 計算モデルについては,新しいシミュレーション環境で強化学習を用いた実験を開始できたが,依然として当初の計画と比べて進捗が遅れている.考案している運動制御理論の特徴が発揮されるような適切な問題・モデル設定において試行錯誤を行っている
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Strategy for Future Research Activity |
今後の新型コロナウィルス感染症の収束を見込んで行動実験を再開するが,収束しない場合のことも想定し,現在進行中の竹刀の素振り課題を題材とした実験に集中して実施することとしたい.計算モデルについては,今年度の数値実験を土台として,注意と運動制御の関わりを扱うモデルを構築する予定である.また,実践を通じた技能遂行に関する認知過程の検討については,引き続き実践の場を題材とした考察・検討を進める. 新型コロナウィルスの影響に加えて,萌芽的研究という性質上,研究が当初の予定通りに進捗しないことはやむを得ないことであるが,研究課題を貫く問題意識が重要であることに変わりはなく,今後も当初目標に向かって地道に試行錯誤と検討を続けるしかないと考えている.1年間研究期間を延長したが,来年度が最終年度であるので,これまでに得られた結果をできるだけ外部に公表するように努めたい.
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Causes of Carryover |
昨年度に引き続き,新型コロナ感染症対策のために行動実験を集中して実施することが難しく実験者協力謝金の少なかったほか,打ち合わせや学会発表等のための出張がなかったため,旅費や謝金の執行が少なかった.特に,当初予算で一定額を確保していた旅費が執行できないことの影響が大きい. 次年度は最終年度であるが,引き続き同じ状況が続くことを想定しつつ,実験の実施や論文執筆・出版に伴う費用として使用することを考えている.
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