2019 Fiscal Year Research-status Report
殻なし孵化装置を用いた経時的連続観察による新規鳥類胚発生毒性評価法の開発
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19K22912
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | ニワトリ / 発生毒性 / 殻なし孵化装置 / 有機リン酸エステル系難燃剤 / 鳥類 |
Outline of Annual Research Achievements |
リン酸トリス 2-クロロエチル(TCEP)は有機リン酸エステル系難燃剤で、火災の延焼を遅らせる目的で繊維製品・工業材料・家具などに使用されている。TCEPは鳥類の組織や卵から検出されている。しかしながら、鳥類胚に対するTCEPの影響についての研究はない。本研究では、in situ 観察が可能な殻なし胚培養系を用いて、ニワトリ胚に対するTCEP曝露の発生毒性を検討した。 培養0日目のニワトリの胚にTCEP 50・250・500 nmol/g卵 を投与した。培養3~9日目に生存率・形態学的バイオメトリクス・心拍数、胚外血管長と枝数を測定した。 生存率は投与3日目から低下し、9日目まで有意に低下した。体長・頭+嘴長・眼径はTCEP曝露により有意に減少した。骨格への影響については、9日目に背骨長が用量依存的に減少した。9日目の体重はすべての TCEP 処理群で有意に減少した。これらの結果から、50 nmol/g 以上のTCEP曝露はニワトリ胚の発育を遅らせることが示唆された。500 nmol/g へのTCEP曝露は、胚の体重に対する心重量の比を有意に増加させた。250 nmol/g 以上のTCEP曝露は、発生初期の胚の心拍数を有意に低下させた。また、50 nmol/g のTCEP曝露でさえも、胚外血管の形成や赤血球数は有意に減少した。これらの知見は、TCEP曝露がニワトリ胚の心血管系に特異的に影響を与え、発育遅延につながることを示唆している。 本研究の結果は、殻なし培養システムが鳥類胚の発育に及ぼす化学物質の影響を継続的にモニタリングするために有用であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ニワトリは、鳥類のなかでも入手が容易でゲノムが解読されているため、鳥類の毒性試験のモデル生物となっている。しかしながら、ニワトリ胚は不透明な卵殻内で発生するため、胚への化学物質曝露試験では同一個体の経時的発生毒性を観察することができない。したがって鳥類では、魚類モデル生物であるゼブラフィッシュやメダカのように、受精卵への暴露試験によって「いつ、どこに、どのような毒性が生じるのか?」といった詳細な情報を得ることが難しい。今年度、研究代表者のグループは卵殻がない状態で胚を発生させる装置を毒性学研究に応用し、ニワトリ胚の発生毒性を経時的に観察することに成功した。この装置を使い、ニワトリ胚の発生毒性発現過程を可視化できた。 化学物質の安全性審査には、試験方法等の国際的調和を目指した取組が進められており、OECDにより試験方法の標準化のための「OECDテストガイドライン」(TG)が定められている。日本でも、TGに則った生態影響試験が実施されてきた。しかしながら鳥類に関するTGは、 摂餌毒性試験や繁殖試験などいずれも成鳥を対象にした試験で、胚の表現型影響を詳細に調べる試験は含まれていない。本研究が示したように、新たな鳥類試験法によって発生毒性が評価できた意義は大きい。したがって、現在までの進捗状況を「当初の研究計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、新たな鳥類胚毒性試験法を確立しただけではなく、TCEP曝露がニワトリ胚に対して発生毒性・心血管毒性を惹起することを示唆した。今後は、経時的連続観察によって影響が認められた心臓を対象に、病理組織学的観察をおこなう。さらに心血管毒性の発現機序を調査するために、トランスクリプトーム(RNAの総体)解析をおこなう。トランスクリプトーム解析には、次世代シーケンサーHiSeqを使用し、約20,000種のmRNA発現量を測定する。TCEP曝露量依存的にmRNA発現量の変動が認められた遺伝子群については、「曝露-遺伝子発現-表現型影響」の関係を予測するため、Comparative Toxicogenomics Databaseおよびそのリンク先データべース(KEGG・Reactome・AOP-KB・DiseaseComps)やバイオインフォマティクスオンラインツール(DAVID・STRING・Cytoscape・TfactS・Enrichr)を利用して、転写因子・パスウェイ・ネットワーク・疾患(表現型影響)のエンリッチメント解析をおこなう。この解析によって、TCEP曝露から表現型影響に至る経路を予測する。
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Causes of Carryover |
発注済み商品の納品が年度内に間に合わなかったため次年度使用額が生じた。 引き続き、本研究内容に沿った実験のために使用する予定である。
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Research Products
(13 results)