2019 Fiscal Year Research-status Report
抗癌剤を利用しない癌治療用ナノDDS :RISET療法の提唱と機能検証
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19K22948
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
秋田 英万 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (80344472)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 癌治療 / 脾臓 / ナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
長年の間、癌治療を目的としたナノテクノロジーの開発は、ナノザイズに制御されたナノ粒子が疎な血管間隙を介して腫瘍組織に浸潤しやすいというEPR効果を基盤として進められてきた。本研究では、上記の古典的な戦略から脱却し、生体における癌免疫の活性化/抑制を担う細胞群の生成や動態、機能を生体内で包括的に制御することで、負に制御された抗腫瘍免疫を賦活化するためのナノ粒子製剤を開発している。 申請者の特許技術である細胞内環境応答性脂質様材料ssPalm (SS-cleavable pH-activated lipid like material)に対して、抗炎症薬物を搭載し、静脈内投与した際の抗腫瘍効果を検証した結果、投与後24時間後から腫瘍の退縮が認められた。また、この抗腫瘍効果を発揮するうえでは、ナノ粒子への水溶性ポリマーの修飾密度の最適値があることが確認できた。また、本抗腫瘍効果は、免疫不全マウスにおいて消失したことから、免疫応答が抗腫瘍活性に重要な役割をはたすことが見出された。 一方で我々は、ssPalm粒子に対してsiRNAなどの小分子核酸を封入することで、高い遺伝子ノックダウン効果が発揮されることを見出した。特に、自己分解性をさらに高めた改良型ssPalmは、肝臓において世界トップクラスのsiRNA及びmRNA導入効果を発揮できることを見出している。本粒子の表面に対して、腫瘍血管内皮の標的化ペプチドを修飾する技術を確立した。本粒子を実際にin vivoで投与した結果、血管内皮細胞のマーカー遺伝子がノックダウンされることを実証している。 今後、本成果をさらに発展させ、リンパ組織(脾臓など)と癌組織間における免疫抑制性細胞のコミュニケーション制御や血管内皮細胞の正常化を介した腫瘍内免疫環境の活性化により患者本来の免疫システムを支援するためのDDS戦略を開拓する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
抗炎症薬として、一般的かつ、強力なデキサメタゾンを用い、本薬物搭載ssPalm粒子を開発した。本薬を搭載したナノ粒子は、100 nm程度の粒子を形成するものの、血中に投与した際には、ナノ粒子から速やかに放出されることが明らかとなった。そこで、安定的に血液中でも薬物が保持できるように、デキサメタゾンのコレステロール誘導体を合成した。その結果、本薬は、血中でもナノ粒子と同じ挙動を示した。 本薬物搭載ssPalm粒子を血中に投与すると、投与後1日後から、速やかに抗腫瘍効果が認められた。本抗腫瘍効果は、免疫不全マウスでは消失したことから、免疫応答が本抗腫瘍効果に重要な役割を果たすことが示唆された。また、本粒子の体内動態を変動すべく、水溶性ポリマー(ポリエチレングリコール)を様々な密度で修飾した結果、抗腫瘍効果が得られるための最適な修飾量があることを見出した。本ナノ粒子は、脾臓への蓄積が高かったことから、脾臓における免疫制御が抗腫瘍効果を発揮する上で重要な役割を果たすことが示唆された。 また、一方で、腫瘍血管内皮細胞への核酸導入技術を開発するために、リガンドペプチド修飾ssPalmナノ粒子を開発することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
脾臓と腫瘍組織に着目し、本ナノ粒子の組織内動態や、脾臓細胞内における免疫抑制性細胞のポピュレーション変動を解析することで、本薬剤が抗腫瘍効果を発揮するメカニズムを明らかとする。特に、腫瘍が進展する過程においては、脾臓組織が免疫の抑制に寄与する細胞群であるMDSC等を産生し、腫瘍組織へ供給するという報告に基づき、これらの免疫抑制性細胞群(TregやMDSC)の割合等に着目する。 また、腫瘍血管内皮細胞に発現しているsiRNAを搭載したリガンドペプチド修飾ssPalmナノ粒子を調製し、血中投与することによりその抗腫瘍効果や腫瘍組織内の免疫に及ぼす影響を評価する。必要に応じて、抗腫瘍効果を検証する上では、PD-1抗体などとの組み合わせについても検証する。
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Causes of Carryover |
化合物の調製に若干の時間を要したため、用いる実験動物の数が少なくなったことや新型コロナウイルスの影響で学会が中止になったことにより、旅費が少なくなったことから、次年度への予算の繰越しがあった。来年度の動物実験や、本実験を実施する上でのナノ粒子調製費用として予算を執行する予定である。
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Research Products
(3 results)