2019 Fiscal Year Research-status Report
分子種識別トモグラフィを実現する非弾性散乱光干渉断層画像計の開発
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19K22979
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
由井 宏治 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 教授 (20313017)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浦島 周平 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 助教 (30733224)
森作 俊紀 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 助教 (00468521)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 分子種識別断層画像 / 誘導ラマン散乱 / OCT / 近赤外光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究の目標である強光散乱体深部に埋もれた目的分子種からの非弾性光散乱信号の検出、その分子種識別断層画像を構築するための装置に関して、その要素技術の一つである光干渉断層計の開発を中心に行った。まず強光散乱体深部からの極微弱な信号検出のために、強光散乱体で選択的に信号が検出できる後方散乱光エンハンスメント現象を利用することで、コヒーレントペア(伝搬方向が逆なだけでお互いにコヒーレントな関係にある一対の散乱光)をなす非弾性光散乱信号を検出し、光路長(測定深度に対応)を調整した参照光とヘテロダイン干渉させ、目的深度からの信号光を選択検出することを考えた。その干渉信号を得る過程で、高空間分解能で埋もれた内部の干渉断層画像を構築する、より簡便な手法として、Mirau型干渉計を内部に搭載した対物レンズ(以下Mirau型干渉対物レンズ)の適用を着想した。Mirau型干渉計では、ビームスプリッタで反射する光(参照光)とビームスプリッタを透過し試料に照射され返ってくる光(信号光)が干渉することから、埋もれた内部の計測が可能であり、かつ信号光と参照光との光路差が短いことから位相乱れの低減が可能となり、サブミクロンの高空間分解能での断層画像構築が可能となる。また光源としては、光干渉断層計の構築後、目的分子種から、非線形ラマン散乱信号の一種である誘導ラマン散乱(SRS)信号を得ることを目的とし、近赤外白色ナノ秒パルスレーザー光源(450~2500 nm)を用いた。Mirau型干渉対物レンズを用いて、当該白色光を試験試料(ポリエチレンテレフタレート膜)に照射した。試料からの反射光をCMOSカメラで検出した結果、各高分子薄膜試料からの干渉縞を観測した。以上より、Mirau型干渉対物レンズを用いて、顕微光干渉断層計の基幹部分を試作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず分子種識別能をもつ非弾性光散乱として、励起光とストークス光の2色の近赤外光によるSRSを用いて、実際に光干渉信号でミクロな凹凸構造がイメージングできるのか、水中に埋もれたシリコンの表面凹凸物体を用いて検証実験を行った。その結果、入射方向に対して、後方からSRSの光干渉信号の検出に成功した。次に光干渉断層計の開発に関して、マイケルソン型の干渉計でなくMirau型干渉対物レンズを適用し、近赤外白色ナノ秒パルスレーザー光を用いて干渉縞を検出し、埋もれた内部を高空間分解能で計測可能な光干渉断層計の基幹部分を開発できた。白色パルス光源を利用すれば様々な波長に対応できること、また顕微鏡下で光干渉像が得られたことから、当初予定していたSRSをはじめとした非線形光学効果を振動分光法による分子種識別ならびに光干渉像を得ることが確実となった。さらにパルス光源でこれらの結果を実現したことで、干渉パターンからの深度情報の選択的抽出に、光学遅延装置を用いた光ゲート法が利用できるようになった。新たに用いた近赤外白色パルス光源は、特注でSRS信号を得るためのポンプ光(1064 nm)の出力ポートを備えており、白色光から目的の分子種固有の振動情報を抜き取るストークス光を選ぶ機構、ならびに、余計な部分からの信号光を効率的に抑えるタイムゲート(時間フィルタリング)のための光学遅延装置の組み立ての検討に入った。研究当初、最も困難な課題の一つと考えていた、強光散乱体深部からの白色パルス光から顕微光干渉信号が順調に得られたことから、「おおむね順調に進展している」と進捗状況を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、前年度に開発したMirau型干渉対物レンズを用いた顕微光干渉断層計を用いて、形状断層像構築のためのレイリー散乱信号と、分子種識別断層像構築のためのSRS信号を同時に目的部位から取得可能な装置の開発を進める。既にポンプ光(1064 nm)と、ストークス光(近赤外白色光)の両方が得られているので、白色光から目的の分子種固有の振動情報を抜き取るストークス光を選ぶ機構、ならびに、余計な部分からの信号光を効率的に抑えるタイムゲート(時間フィルタリング)のための光学遅延装置の組み立てを行う。またSRS以外の非弾性光散乱信号として、光干渉像を構築する際にバックグラウンド信号となりやすいポンプ光やストークス光と波長選別の容易なコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)信号の取得もあらかじめ念頭に置いて進める。当該装置では、近赤外白色パルスレーザーを用いていることから、マルチプレックス計測が可能であり、狭帯域光学フィルターで波長選別する方法のほかに、イメージング分光器と組み合わせて、高速CCDカメラによる光検出も視野にいれて研究開発を進める。以上の装置の開発を進めながら、眼底検査用の光学ファントムや角質と表皮を模した層状の皮膚ファントムの作製を同時進行させ、ファントム中に脂質や経皮吸収薬剤を内包したカプセルを目的深度に埋める。作製したファントムに当該開発装置を適用することで、目的分子種選択的な断層画像を構築する。
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Causes of Carryover |
申請段階では、研究初年度の目標として、強光散乱体深部に埋もれた目的分子種からの非弾性光散乱信号の検出と、その分子種識別光干渉断層計の開発を掲げていた。その中で、顕微光干渉断層計の基幹部分の試作を行い、次年度に目的分子種からの非弾性光散乱信号の検出および断層画像の構築を実行する。非弾性光散乱信号検出のために必要なロックインアンプの支出を次年度に繰り越したため、次年度使用額が生じた。
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