2019 Fiscal Year Research-status Report
Application of hyperactive antifreeze from a cold-tolerant insect
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19K22989
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
津田 栄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (70211381)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 恭史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (80356675)
近藤 英昌 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (80357045)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 不凍タンパク質 / オオクワガタ / チャイロコメノゴミムシダマシ / 熱ヒステリシス / ナノ氷結晶 / 再結晶化阻害剤 / 遺伝子 / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子生物学や生化学の手法を駆使することによって、オオクワガタ(Dorcus hopei binodulosus)終齢幼虫の組織液が含んでいる強力な凝固点降下能をもつ物質、すなわち不凍物質を単離精製することに成功した。解析の結果、この物質はタンパク質であることが判明し「オオクワガタ由来不凍タンパク質(DcbAFP)」と名付けた。更なる解析を進め、1匹のオオクワガタの幼虫が6種類の不凍タンパク質アイソフォーム(DcbAFP1~6)を混合物として体内に発現していることを突き止めた。そこで、組織液に含まれている遺伝子の配列解析を行い、DcbAFP1~6をコードするDNAを特定した。DcbAFP1~6の骨格構造は、TCTxSxNCxxAx(T:スレオニン、C:システイン、S:セリン、N:アスパラギン、x:任意のアミノ酸)で表される12残基のアミノ酸配列が6~8回繰り返したもので出来ており、それらの分子量は8.2~11.2kDaの範囲にあると考えられた。このようにして、オオクワガタがもつ強力な不凍物質の素性を解明することができたが、この先の応用実験に向けて同物質を大量精製する上で、オオクワガタ幼虫が非常に高価であることが問題になった。そこで、オオクワガタと同じ不凍タンパク質をもつ別の昆虫を探索したところ、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)が利用できることが判明した。この昆虫の幼虫はミルワームと呼ばれ、小鳥など小動物のエサとして大量生産する手法が確立されている。そこで上述の実験プロトコルをミルワームに適用し、その不凍タンパク質(TmAFP1~12)のアミノ酸と遺伝子の配列を決定することに成功した。今後はDcbAFPとTmAFPの両方を用いて研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究目標は、オオクワガタ(Dorcus hopei binodulosus)終齢幼虫がもつ強力な不凍物質がどのようなものかを明らかにすることであった。本研究により、これが不凍タンパク質(Antifreeze Protein)であること、しかもそれが僅かにアミノ酸成分が異なる6種類の不凍タンパク質アイソフォームの混合物(DcbAFP1~6)であることが明らかになった。さらに、これらのタンパク質をコードするDNAを組織液の中から抽出し、それらの配列決定にも成功した。こうして、DcbAFP1~6が、12残基のアミノ酸配列のタンデム・リピートであることを見出した。その結果、遺伝子工学的手法によるDcbAFP1~6の人工合成が可能になった。しかし、人工合成で得られるタンパク質量は10~20mgであり、ナノ氷結晶作製実験には量が足りないことが問題になった。大量に幼虫を購入して組織液を集め、そこからタンパク質を大量抽出すれば良いが、オオクワガタは非常に高価である。そこで、オオクワガタと同じ不凍タンパク質をもつ別の昆虫を探索し、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)が利用できることを突き止めた。この昆虫の幼虫すなわちミルワームは小動物のエサとして安価に大量に入手可能である。研究を進め、安価なミルワーム不凍タンパク質(TmAFP1~12)が高価なオオクワガタ不凍タンパク質の代用品として使えることを明らかできた。今後の研究にDcbAFPとTmAFPの両方を利用できる状況に至っており、本研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究目標は、応用実験に向けたオオクワガタ由来不凍タンパク質(DcbAFP1~6)又はその同等品であるミルワーム由来不凍タンパク質(TmAFP1~12)の大量精製法を確立し、それらの熱安定性、水溶性、熱ヒステリシス活性、氷結晶成長抑制機能、氷結晶形状制御能などを明らかにし、ナノ氷結晶作製に向けた基礎的知見を得ることである。そのために、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、冷却ステージ付き顕微鏡システムなどを用いた生化学・物理化学的実験を進める。水の凍結過程を詳細に観察するための分光学実験も並行して行う。氷結晶の成長抑制にはタンパク質表面に結合している水分子の数と構造が重要であり、それらが実験の度に変化するようだと結果が安定しないと考えられる。特にこの点に注意してAFPサンプルの精密な作製手順を確立したい。
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Causes of Carryover |
オオクワガタ由来不凍物質がタンパク質であることが早い段階で判明し、すでにあるクロマトグラフィー・ベースの不凍タンパク質大量精製システムを活用できることになった。これにより氷晶プローブを用いた精製システムが省略可能になり、支出の抑制に繋がった。2020年初頭に新型コロナウィルス感染症が社会問題化し、共同研究者との打ち合わせや学会・研究集会への参加が全て取りやめになった。また実験に関わる備品や消耗品の調達請求もできなくなった。2020年度内に緊急事態宣言が解除され研究再開が可能になれば、ガラス・消耗品等の購入や研究集会への参加費用を支出させて頂きたいと考えております。
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Research Products
(27 results)