2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K23015
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
小野 純一 自治医科大学, 医学部, 講師 (20847090)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 想像力 / イメージ / 心象 / 意味論 / 井筒俊彦 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に『言語と呪術』における内包的意味=心象の記述を調査した。井筒は同時代の言語学の行動主義、すなわち言葉の指示、一義的な意味(普遍者)というべき論理的側面にばかり焦点を当て、心理的な側面を排除していると批判する。代わりに内包的意味を構造的に捉える記述を行い、感情や情緒を引き起こす側面と、認知の基礎が心象にあるとする。この意味で、井筒の「呪術」はプロパガンダや人心操作、非実在を実体化させることだと分かった。宗教的な意味での呪術は、認知の基礎として働く心象喚起が意味の実体化に転じる意識作用を利用して、心に作用することを指すのであり、心象喚起の方こそ宗教的呪術の基礎と見なされる。 次に、井筒は意味が論理的な普遍者あるいは概念へと一義化される過程を記述することが分かった。これは多義的な意味構成が概念として固定されずに、流動性が現実態のままに意味が形象を獲得する過程である。1952年の言語学概論でベルクソンの記憶と知覚の理論を援用していると思われる記述を参照するなら、井筒はソシュールを読みかえるために、語が普遍者(ベルクソンなら一般観念)へと限定される過程を描く『物質と記憶』の円錐を利用することが理解できる(その底辺もしくは断面がラングで、頂点がパロールの現場に当たる)。 ここからは、意味が可能態からパロールつまり語として現実態に移行する出来事とは語が生命の場に降りることだと井筒が考え、ベルクソン生命哲学に接近することが分かる。井筒は『創造的進化』から意味の実体化の例を採用するなど、ベルクソンへの依拠が大きい。井筒はベルクソンを介することで、ソシュール言語学の意味論的意味や現象学的志向性を超えて、記憶における意味現象を論じる、後年にエラノス会議での言語アラヤ識の導入、『意識と本質』での本質の類型化の基礎が準備されていることが判明した。
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