2021 Fiscal Year Research-status Report
現代の情動の哲学の知見を踏まえた、合理性の向上による道徳エンハンスメントの可能性
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19K23017
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
林 禅之 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (90846867)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 道徳エンハンスメント / 痛み |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の路線変更に基づき、道徳エンハンスメントについて、引き続き2つの方面から研究を進めた。1つは、心はいわば頭蓋を超えた事物によっても実現されるという「拡張した心」の議論を参照しながら、道徳エンハンスメントを再考するというものだ。「拡張した心」の議論を応用すると、ノートやスマートフォンアプリ、さらにはAIの道徳判断によってより良い道徳的行為をなすことを推進すべきなのか、という問いが生じることになる。どのような具体的な形の道徳エンハンスメントが望ましいのかを、これまでの研究を総合して考えつつある。 第二に、道徳エンハンスメントが人間のアイデンティティに及ぼす影響を引き続き探った。文献を調査してわかったことは、むしろ道徳エンハンスメントはアイデンティティ(同一性)に影響を及ぼすというよりは、自己の真正性の方に大きな影響を及ぼしそうだ、ということだ。特に情動に働きかけるような道徳エンハンスメントは、状況に応じたしかるべき情動を抱くことを妨げるがゆえに、真正性により大きな影響を及ぼすことが予想される。 以上の研究を進めている間に、さらに痛みについての哲学文献のサーヴェイを行ってきている。本研究課題の他に進めている脳オルガノイドの研究や、意識の道徳的重要性の研究を行った結果、やはり痛みの本性と、その道徳的含意を根源的な観点から考察することが必須であると考えるようになった。道徳エンハンスメントとの関係で言っても、そもそも痛みに共感する能力が利他心の大きな構成要素であるように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度に引き続き、Covid-19の影響は大きく、全体的に思うような研究成果を出すことができていない。本研究課題以外でいくつか成果を出すことができたが、本研究課題の遂行には時間がかかっている。そのため、さらなる研究期間延長を申請させていただいた。これまでの研究を論文の形で出版し、最終的にワークショップの開催を行う。投稿論文については定期的な検討会を開いていただいており、進展が見られているが、ペースが遅れているので、期間内に成果を出すためにはもう少し急がなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き研究を進める。もしかすると、副産物であったはずの痛みの研究の方が先に成果として完成するかもしれない。柔軟に考えつつ、できる限りのペースで成果を発表していきたい。
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Causes of Carryover |
当初予定していた旅費などが未使用なのと、論文作成に遅れが出ており英文校閲費なども未使用である。 次年度は、随時文献の費用などに充当していきたい。
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