2023 Fiscal Year Annual Research Report
現代の情動の哲学の知見を踏まえた、合理性の向上による道徳エンハンスメントの可能性
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19K23017
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
林 禅之 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (90846867)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 道徳エンハンスメント / 情動 / 痛み |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、道徳エンハンスメントについての研究を行った。本年度は、昨年度までの研究を踏まえつつ、2つの研究成果を出すことができた。 第1に、認知・思考能力を増強することによる、情動を間接的に制御する形での道徳エンハンスメントの可能性を探り、国内外2つのワークショップで発表した。仮に、特定の個人が自発的に道徳エンハンスメントを行うことが道徳的に許容されるとして、具体的にどのようなタイプの生物医学的エンハンスメントのあり方が望ましいのか、まだ答えは出ていない。この2つの発表では、哲学者Thomas Douglasや、Brian D. Earpらの議論を批判的に検討しながら、どのような認知能力のエンハンスメントが道徳エンハンスメントにつながるのかを、自己制御能力・意志力、推論能力、集中力といった要素に分けながら具体的に検討した。その際、共時的な(ある1時点での)認知制御と、通時的な(時間を通じた)認知制御の2つに分けて考察することを提案した。今のところ、道徳エンハンスメントには認知能力の増強も併用が可能だ、という弱い結論しか出ていないが、今後さらに検討を続けていく。とくに、合理性が全体論的に情動を制御しているという可能性を視野に入れていく。 第2に、逸脱的なタイプの痛みの可能性について、オーバービュー的な研究発表を国外のシンポジウムで行った。この研究トピックは、今後より深めていくつもりである。 第1の研究に関するワークショップを、9月に京都大学にて開催することができた。そこでは、研究協力者の高木裕貴、福原慶の2人を含む3名が発表を行い、議論を行なって内容を深めることができた。 研究期間内には論文としての成果を出すことができなかったが、今後さらに内容を深化させていき、成果発表につなげたい。
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Remarks |
国内ワークショップ開催「道徳エンハンスメント:情動と環境という観点から」2023年9月18日、京都大学。
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