2019 Fiscal Year Research-status Report
模本および画人伝資料の調査を通じた江戸時代後期の室町水墨画の受容
Project/Area Number |
19K23019
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松谷 芙美 慶應義塾大学, ミュージアム・コモンズ(三田), 講師 (30847760)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | 日本美術史 / 室町水墨画 / 模本 / 画人伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
「①千秋文庫所蔵模本の調査」 千秋文庫が所蔵する菅原洞斎、狩野秀水らの描いた模本のうち、2019年度は、②の調査との関連で雪舟関係の模写本を中心に調査を行った。 「②模本の典拠となる作品の調査」 千秋文庫所蔵の模本のうち原本が現存する作品については、原本と比較し、彩色や筆致の再現がどのレベルまでなされ、簡略化はどの点でなされているのか、調査を行った。2019年度は、狩野常信筆模本「雪舟筆鎮田滝図」、雪舟等楊筆「天橋立図」(共に京都国立博物館所蔵)の調査を行った。前者の常信の描いた模本と、①で調査した秀水が描いた模本の比較からは、絹本と紙本の違いはあるものの、常信の方が筆線よりも空間表現を重視し、秀水は筆線を重視する結果、奥行が欠如する傾向が見て取れた。また「天橋立図」の原本と模本にも、多数の相違点があるが、原本に描きこまれた景物に対する模写者の解釈が、影響を与えていると考えられる。特に時に雪舟の個性とも言われる、何であるか判然としない墨の面などに対して、模写者が写しきれないでいる点があった。墨の濃淡などによって、生み出される遠近感など、原本にある視覚的な技巧が、模本では欠落していた。当然の結果とは言え、具体的に雪舟のどのような描写が写しきれていないのかを分析することは、翻って雪舟の特徴を客観的に把握することに繋がるだろう。以上から、江戸時代の視点を借りて、室町水墨画研究に資するという本研究の目的に対し、資料分析に加えて、以上のような様式面の分析が、ある程度有効であろうという感触を得た。また、上記の調査に加えて、東京文化財研究所の売り立て目録データベースを参照し、調査済みの模写本の原本に該当すると考えられる作品の情報をいくつか得られた。 「③原典となる室町水墨画の江戸時代後期における流通状況の分析」 これらの分析は、上記①②の調査の結果を踏まえながら、主に2020年度の作業とする。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の進行については、当初予定していた白鶴美術館での調査が先方と日程の調整がつかずに実行出来なかった以外は概ね順調である。コロナウィルスの影響が出る前に、出張による調査が実行できたことは幸運であった。 今年度は、本務で、大学美術館の開館と、寄贈品の受け入れという重要な業務を控えており、春から夏にかけて出張調査の計画を立てていた。そのため、コロナウィルスの影響で計画通りに調査を完了することが出来ないと予想される。そこで、本年度は研究計画の「③原典となる室町水墨画の江戸時代後期における流通状況の分析」を中心に取り組む。本研究の延長が認められたならば、当初計画していた「②模本の典拠となる作品の調査」を来年度に実施したいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナウィルスの影響で、研究計画のうち「②模本の典拠となる作品の調査」の実現が難しいため、過去の研究の蓄積がある「①千秋文庫所蔵模本の調査」で得た資料を元に「③原典となる室町水墨画の江戸時代後期における流通状況の分析」に取り組む予定である。データベースやオンラインでのデジタル画像公開が進んでいるので、それらを利用して、洞斎周辺で制作された模写本や資料類の情報収集を行うことはある程度可能であると考えている。
|
Causes of Carryover |
文献複写代が2019年度支払いの予定であったが、出張が年度末に近かったため、支払いが2020年度になった。予定していた兵庫県での調査が、先方と都合が合わず実施できなかった。
|