2021 Fiscal Year Annual Research Report
「称名寺聖教」を中心とした中世日本における喫茶文化の受容に関する研究
Project/Area Number |
19K23020
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
張 名揚 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (80850875)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 「称名寺聖教」 / 『喫茶養生記』 / 密教 / 星供 / 煎茶法 / 点茶法 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、引き続き「称名寺聖教」をテキストに、特に密教星供の茶を調理する方法に注目しながら考察を行った。その成果を「「称名寺聖教」から見る密教星供と唐宋期の喫茶文化」(『金沢文庫研究』第347号、2021)として発表した。 中世日本の密教寺院は、「天」に位置付けられる星宿を茶で供養する理論を継承しつつ、新しい世俗の風潮の影響を受けて作法に変更を加えていた。「称名寺聖教」第261函には、平安末期の『秘鈔』より書写された四点の「秘抄 北斗」(261函-1~4)が収められ、茶葉の煎じたもの、いわゆる煎茶法と思われる唐代の作法で調理される茶の利用が記されている。一方、『秘鈔』に関する口伝をまとめた、鎌倉末期の『秘鈔口决』より書写された「秘鈔口决 本抄第十八巻」(129函-21)には、星供に利用される茶が「最上」「中品」「下品」に分類されており、ここでは煎茶法で調理される茶が「中品」に位置付けられ、宋代の代表的な喫茶法、いわゆる点茶法との関係を思わせる「茶のコ」(粉末にした茶)が「最上」となっている。この現象は、中世日本の密教星供に用いられる茶の調理法が、煎茶法から点茶法に変わっていく段階にあることを示している。 併せて注目したいのは、鎌倉初期の栄西の『喫茶養生記』下巻の「喫茶法」には、点茶法と思われる作法が記されている。「喫茶法」は、事例として前述した「天」と「諸天」を茶で供養することが挙げられている。『喫茶養生記』は密教思想をベースにして記されたこと、点茶法を記した箇所には「云々」という典拠となる文献もしくは口伝の存在を示す語が見えることなどから考えると、生涯密教僧として活動していた栄西が、密教寺院に伝わる宋式の点茶法を意識して『喫茶養生記』を執筆した可能性が浮上してくる。すると、中世日本の密教寺院における点茶法の導入も、『喫茶養生記』が成立した頃に遡るとみることができる。
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