2019 Fiscal Year Research-status Report
ダンス・アーカイブ構築に向けた伊藤道郎とアーニー・パイル劇場に関する研究
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19K23021
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
串田 紀代美 実践女子大学, 文学部, 准教授 (80790906)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 伊藤道郎 / テイコ・イトウ / 東洋舞踊 / 日本劇場 / トランス・ナショナル / ダンス・アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、洋舞草創期における日本独自の創作舞踊の原点を再評価するため、従来研究対象とされてこなかった占領期のアーニー・パイル劇場を含め、日米で活躍した舞踊家・伊藤道郎の活動を日米の現存資料から明らかにすることを目的とするものである。特に長期間にわたる米国滞在を経験した伊藤道郎は、アジアの複数の文化的イメージを操作し客体化して見せる舞台演出を得意としたことがこれまでの研究で明らかになっていたが、これらに少なからず影響を与えていたのが実弟の伊藤祐司とその妻である日系米国人舞踊家のテイコ・イトウの存在であることが一次資料によって明らかになった。具体的には、伊藤道郎は1930年代に滞在先の米国から日本に一時帰国していたが、同時期に伊藤祐司とテイコ・イトウ夫妻も来日しており、帰国中の伊藤道郎が「プリンス・イゴール」の演出を手掛けた日本劇場から招聘され、振付師としてタイ、インドネシアなどの東南アジアの朝鮮半島の舞踊の上演に携わっていたことが判明した。この研究成果は『実践女子大学美學美術史學』第34号に掲載された。 伊藤祐司とテイコ・イトウ夫妻は、戦中期の来日の際にインドネシアのジャワ島およびタイなど東南アジアを周遊しており、テイコ・イトウは現地で舞踊を習い覚えていたことがリサイタルのプログラムおよび日本劇場関連の一次資料から明らかになった。その結果、短期間ではあるが戦中期の日本で活躍したテイコ・イトウによる、「帝国日本」を表象した「東洋舞踊」の創作と演出が、トランス・ナショナルな視点を持って製作されていたことを裏付けるものとなった。当該年度は、テイコ・イトウの東南アジアでの足跡を調査する準備として、タイ王国バンコクを訪れ、在タイ日本大使館の協力を得た上でタイ入国に関わる資料の所在確認や調査方法に関する情報収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、1.既に収集した資料の翻訳と写真記録の分析、2.収集資料に基づいた伊藤道郎の舞踊創作および舞台演出手法の分析、特定文化等を表象する可視化されたモチーフの抽出の予定であった。(1)既に収集した資料の翻訳と写真記録の分析は、①早稲田大学演劇博物館収蔵「千田是也文庫 伊藤道郎関係」資料、②米国国立公文書館収蔵「占領期日本関係資料」RG111 “Records of the Office of the Chief Signal Officer”, Photographs: Signal Corps U.S. ARMY, Photographs of American Activity, 1900 - 1981の写真記録、③ニューヨーク公立図書館収蔵資料にて収集した新聞雑誌記事の複写資料を中心に実施する予定であったが、結果的に③の伊藤祐司とテイコ・イトウの断片的な足跡をたどるべく一次資料の分析に多くの時間を費やすこととなった。一方、日本劇場等、戦前期の日本国内の民族舞踊をモチーフにした舞踊創作と上演に関する写真記録等や新聞雑誌記事から、トランス・ナショナルな帝国日本の実像を探るなど、特定の文化圏を表象するモチーフや演出手法の分析とその類型化を試みることができた。 さらに、資料②③を補うべくアメリカ合衆国における海外調査を計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、渡航が難しい状況となったため、次年度の計画に新たに組み込む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は、①日系米国人舞踊家テイコ・イトウに関する日本での活動に関する現存資料の調査収集、②アーニー・パイル劇場に関する米国の資料の調査収集、③戦後日本での伊藤道郎の活動実態の把握と資料収集を計画していたが、①に集中したため、次年度は当初の予定どおり、米国議会図書館における日本関係資料の調査収集・翻訳、演出における「文化の客体化」および「文化の流用」といった事例の抽出、日米両国で収集した文字資料(新聞雑誌記事・舞台ノート・スケッチ・手帳・メモ等)と写真等の画像資料の翻訳を進める予定である。 さらに①についても、当該年度の調査研究によりテイコ・イトウおよび伊藤祐司の戦中期の日本国内における活動状況が徐々に明らかになってきた。これまでも、伊藤祐司は兄である伊藤道郎とともに協働的に芸術活動を行ってきたことが先行研究から明らかにされているが、特に戦中期に短期間日本に滞在していたテイコ・イトウと、義兄の伊藤道郎との影響関係を、トランス・ナショナルな視点からの創作舞踊および舞台演出の手法に着目しながら分析することが早急の課題である。そのため、当該年度に実施できなかったアメリカ合衆国での調査を、可能な限り実施する。
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Causes of Carryover |
当該年度に計画していた、米国国立公文書館、およびニューヨーク公立図書館収蔵資料等の現地調査が新型コロナウイルス感染拡大などの影響を受けて実施できなかったため、次年度に2年分の調査をまとめて行う計画である。
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Research Products
(2 results)