2020 Fiscal Year Research-status Report
ダンス・アーカイブ構築に向けた伊藤道郎とアーニー・パイル劇場に関する研究
Project/Area Number |
19K23021
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
串田 紀代美 実践女子大学, 文学部, 准教授 (80790906)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | アーニー・パイル劇場 / 伊藤道郎 / ステージ・ショウ / 演出の戦略 / 民族舞踊 / ダンス・アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、洋舞草創期に米国で27年間活躍した舞踊家伊藤道郎の生涯にわたる舞踊創作活動を明らかにすることを目的とする。従来研究対象外であった戦後の伊藤道郎は、1945年にアーニー・パイル劇場の打診を受け総監督に就任すると、翌年4月に劇場専属舞踊団を発足させた。経営上の問題で1946年9月に同舞踊団が解散すると伊藤道郎プロダクションを設立し、以後、伊藤道郎舞踊研究所の後進育成、ファッション・モデルやテレビ草創期のタレント養成事業を手掛け、ジャンル横断的に活躍した。 今年度は早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点令和2年度公募研究に「千田資料によるアーニー・パイル劇場の基礎研究-1946年から1948年までの伊藤道郎の舞踊実践とジャンルを越境した活動記録」が採択され、当館所蔵の「千田是也コレクション伊藤道郎関連資料」を調査した。4か月という短期間であったが、アーニー・パイル劇場関連文書、写真アルバム、スクラップブック、台本、ノート、手稿、チラシ、手帳等を調査し、すでに収集した研究資料と比較しながら、戦後の伊藤道郎の活動実態の考証を包括的に進めた。その結果、アーニー・パイル劇場総監督就任後の1946年2月から1947年8月までの約1年半で、日本側製作部が手掛けたステージ・ショウ作品は13作品に上ることを一次資料から裏付けた。さらに上演内容を考察した結果、劇場専属舞踊団の技量と成長に応じ、日本の風俗を題材とした「和物」から、沖縄、ハワイ、東南アジア、南米の風俗や民族舞踊の要素を取り入れた「民族物」を経て、「洋物」つまりジャズをアレンジしたアメリカン・スタイル・ショウの形式へと発展させた伊藤道郎の演出上の戦略を明らかにした。民族舞踊を題材とした演出には、義妹の舞踊家テイコ・イトウと戦前期米国に流行した東洋舞踊(Oriental Dance)が影響していることも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、1)すでに収集した資料の翻訳と写真記録の分析、2)収集資料の考証を中心にアーニー・パイル劇場における伊藤道郎の舞踊創作と演出戦略の特定を進めた。1)すでに収集した資料とは、①早稲田大学演劇博物館所蔵「千田是也文庫伊藤道郎関係資料(2014年資料調査当時の資料名)」、②米国国立公文書館所蔵「占領期日本関係資料」RG111"Records of the Office of the Chief Signal Officer", Photographs: Signal Corps U.S. Army Photographs of American Activity, 1900-1981の写真記録、③ニューヨーク国立図書館所蔵資料である。加えて、早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点令和2年度公募研究に「千田資料によるアーニー・パイル劇場の基礎研究ー1946年から1948年までの伊藤道郎の舞踊実践とジャンルを越境した活動記録」が採択され、当該機関が所蔵する伊藤道郎に関する貴重な資料を包括的に調査する機会に恵まれた。その結果、戦後の伊藤道郎の活躍の場は、アーニー・パイル劇場のみならず、日本劇場、国際劇場、米軍キャンプ、ファッション・ショウ、ミス・コンテスト審査員、草創期のテレビ番組制作などジャンル横断的に拡大していたことが確認された。 2)収集資料の考証に基づいた伊藤道郎の舞踊創作と演出戦略の特定に関しては、アーニー・パイル劇場プログラム(1948年2月19日~29日、日本劇場)の発見により、アーニー・パイル劇場開館から約1年半にわたる日本側劇場製作関係者が手掛けたステージ・ショウ13作品の詳細と、劇場専属舞踊団員の技量と成長に応じた演出の戦略的手法を明らかにした。 米国調査は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて実施できなかったため、次年度に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画した研究内容はほぼ実施することができたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、アメリカ合衆国における海外調査の実施を実現することができなかった。そのため、渡米が可能となった場合は米国国立公文書館、ニューヨーク公立図書館パフォーミング・アーツ部門での調査を直ちに実施する予定である。 今年度に実施した調査により、早稲田大学演劇博物館所蔵の非公開資料「千田是也コレクション伊藤道郎関連資料」には、アーニー・パイル劇場開館後に日本側舞台製作関係者によって上演された1946年2月から1948年3月頃までの上演に関する多数の資料(プログラム、ノート、手稿等)が含まれていないことが判明した。この時期は、アーニー・パイル劇場の総監督であった伊藤道郎が、日本側舞台製作関係者と協働で新作のステージ・ショウを次々と製作・上演していた時期と重なることが本研究で明らかになった。これは、米国国立公文書館所蔵「占領期日本関係資料」のアーニー・パイル劇場に関する写真記録が同時期に集中して撮影されていることでその事実を裏付けることができる。 以上のことから、伊藤道郎のダンス・アーカイブ構築のためには、早稲田大学演劇博物館に所蔵されている非公開資料以外にも、包括的に資料を収集する必要が示唆された。今後は、ジャンルを越境して活躍した戦後の伊藤道郎の活動実態をより正確に把握し、「東洋舞踊」や「民族舞踊」から題材を得てショウを構成するという伊藤道郎独自の演出戦略をさらに解明するため、実弟の伊藤祐司、義妹のテイコ・イトウとの影響関係をトランス・ナショナルな視点から分析することが課題である。その際、カリフォルニア大学アーバイン校のTara Rodman氏の協力を得ながら、包括的な資料収集ならびに考察を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大のため、米国調査を実施することができなかったため、2022年3月に、米国国立公文書館ならびにニューヨーク公立図書館パフォーミング・アーツ部門での3週間程度の調査を計画している。
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