2019 Fiscal Year Research-status Report
田辺哲学の中期から後期への発展の解明――武内義範との交流を踏まえて
Project/Area Number |
19K23025
|
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
浦井 聡 大谷大学, 文学部, 助教 (50844370)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | 田辺元 / 武内義範 / 種の論理 / 懺悔道 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績はふたつに分けられる。ひとつは研究代表者自身のテキスト読解を通じての研究成果、もうひとつは大学院生に協力してもらっての資料翻刻である。 1-1.本研究の焦点である「沈黙期」の前後をつなぐ田辺の思想変遷の見取り図を作成した。今まで「沈黙期」を含む田辺の思想の深化はほとんど言及されてこなかった。研究代表者は、田辺が思索の源泉としていたテキストと田辺のテキストを突き合わせ、田辺の思索の焦点がどこにあったかを詳細に読み取り、1938-47年までの思索の見取り図を作成した。本成果は翻刻資料公表の際に解題として付す予定である。 1-2.テキストから読み取ることのできる中期と後期の間の差異を解明した。その中でも特に差異の大きい概念として、「絶対無」と「個の行為」に焦点をあてて解明し、2本の論文として投稿した。 1-3.海外の研究状況を鑑みつつ研究成果を英語で発信した。現在田辺のテキストの翻訳はまだ少ないため、海外の研究者は田辺哲学の全体像を知ることができず、海外の田辺研究は黎明期と成長期との間の様相を呈している。したがって、研究代表者が現在取り組んでいる研究をそのまま公表しても現状ではその意義を伝えにくい。そのため、今後も長期的な視野で田辺哲学を紹介していくことが必要である。以上を鑑み、現在までに海外と共有している範囲の文脈を利用して田辺の思索の特徴を示すことにより、自身の研究成果をひとつの足場とすることを目指して英語での成果発表を行った。そのひとつとしてInternational Association for Japanese Philosophy(於ハワイ大学マノア校)で研究発表を行った。加えて、同趣旨の英語論文を投稿中である。 2.資料翻刻については、2019年度は田辺元と武内義範の往復書簡の半数と、1943年1-8月の田辺の手帳の一次翻刻を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度に行うべき作業はほぼ終えることができた。特に1938-47年の田辺のテキストを、田辺が思索の源泉としていたテキストと突き合わせながら精読することによって、本研究の掲げる「沈黙期における思索の深化の解明」の土台を固めることができた。また、ハワイ大学における発表の際には、海外研究者との意見交換を通して海外での田辺受容の様子を認識することなどを含め、予想以上の収穫があった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度と同様の方法によって進めていくことで本研究の目的を達成できると考えている。ただ、2020年度は翻刻成果の公表を行うため、一次翻刻済の資料の二次翻刻を同時に進めていく。それを目がけて、すでに翻刻人員の増強を行った。ただし、2020年度は貴重な意見交換の場である国際学会がふたつ、新型コロナウイルスの影響で2021年度に延期になったため、状況を見ながら対応していくことが必要である。
|
Causes of Carryover |
本科研で参加を予定していた海外学会の渡航を、研究代表者の事務手続きに対する理解不足により交付内定前に契約してしまい、渡航費を本科研で執行できなかったため。次年度の使用計画としては、翻刻費用・英文チェック費用・海外学会参加費用として使用していく予定であったが、2020年度に旅費を計上していた国際学会も新型コロナウイルスの影響で現時点ですでに一年の延期が決定している(そのひとつ16th International Conference of the European Association for Japanese Studiesはすでにアクセプト済だが、2021年8月25-28日への延期が決定している)。そのため、研究期間の一年延長を検討している。
|