2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K23026
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
櫻井 真文 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員 (20844096)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | フィヒテ / 道徳性 / 衝動 / 調和 / 選択意志 / 純粋意志 / 道徳感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019 年度は、イェーナ期(1800 年以前)フィヒテにおける「道徳性(Sitlichkeit)」の応用可能性の究明を主題に掲げ、人間の「道徳的使命」と基礎的衝動との関係について、解明を行った。具体的な研究の進め方としては、フィヒテが一般学生向けに講義した『学者の使命に関する数回の講義』(1794年)と、自身の哲学原理を口述した『新しい方法による知識学』(1798/99年)を分析するという手法が採用された。前者の著作に関しては、9月に「Fichte on the Division of Human Nature: A Contribution to the Debate on Transhumanism」という標題の研究発表を行い、人間には欲望の充足を単に目指す「感性的衝動」のみならず、自立性としての自由を目指す「純粋衝動」があること、そして感性と理性の「調和(Harmonie)」を目指す衝動が人間の根本衝動であることが解明された。後者の著作に関しては、11月に「『新しい方法による知識学』における一人称的観点」という標題の研究発表を行い、道徳的存在者としての人間には、「純粋意志(reiner Wille)」の命じる「自由の実現」がその使命として課せられていること、ただしこの課題の達成の可否は、常に当の人間の「選択意志(Willkuer)」に委ねられるべきである、という解釈が提示された。 本研究実績の哲学史的意義は、カント倫理学で提示された「道徳法則」や「自律」等の叡知的な重要概念と、人間に備わる「衝動」や「感情」等の自然的諸規定との首尾一貫性を、フィヒテ倫理学の内に究明した点に認められる。特に、道徳原理の応用可能性を考察するためには理性と感性の媒介としての「道徳感情」に着目する必要がある、というフィヒテ倫理学の基本構図を明示した点に、本研究の重要性は存しているであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の個別課題として掲げた「道徳感情の構造解明」に関しては、当該テキストの分析が滞りなく進展しており、研究発表時の質疑応答においても、「道徳感情に関してはフィヒテと後期カントの比較をしてはどうか」という今後の研究に関する有意義な助言も受けているため、順調な進捗状況であると考えられる。また9月から10月にかけて、ミュンヘンのバイエルン学術アカデミーを訪問した折には、カント倫理学を巡る1790年当時の一次文献を入手することができ、その後に参加した、ミュンヘン大学での国際会議(The Concept of Drive in German Idealism)では、ドイツ観念論における理性と感性の統合構造について、様々な国での、最新の研究動向を知ることができた。なかでも、国際会議のコーディネーターであるJ. Nollerさんの研究室を訪問し、研究結果に関する意見交換をした結果、1785年以後のカント倫理学の展開を巡る、2020年以後の国際会議での発表機会を頂くことができた。なお当初の計画書で予定していた、関西倫理学会大会での発表は、同月開催のフィヒテ学会の「共同討議」に招待されたため、フィヒテ学会での発表に取って代わられることとなった。以上の通り、文献研究も順調であり、国内外の研究者との意見交換も活発に行われていることから、本研究課題はおおむね順調に進展していると結論付けられるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、交付申請書の計画に従い、道徳感情と義務の連関構造の解明に着手する。具体的には、フィヒテが道徳原理の最終的な発現様式と考える「義務(Pflicht)」概念に焦点を絞り、義務の遂行に際して「道徳感情」が果たす役割を検討する。主要テキストとしては、フィヒテが一般向けに公刊した『人間の使命』(1800年)を取り扱い、道徳感情の構成要素としての、自由への「信仰(Glaube)」が、人類全体の道徳的陶冶の不可欠な制約であることを解明する。 なお申請者は、2020年度より同志社大学の「EUキャンパスフェロー」としてドイツのテュービンゲン大学において研究活動に従事することになる。そのため当初予定していた「関西哲学会」での研究発表は難しくなる恐れも考えられるが、その際には、テュービンゲン大学のBrachtendorf教授に指導を仰いだうえで、EU圏での学会での研究発表に切り替え、ドイツ語あるいは英語で研究発表を行うこととする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、消耗品費等の購入において端数が生じたためと考えられる。次年度の使用計画としては、文房具等の消耗品を購入するために使用する予定である。
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