2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K23027
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
鈴木 崇志 立命館大学, 文学部, 授業担当講師 (30847819)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 現象学 / 共同体 / 他者論 / フッサール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終目的は、「共同体」概念による現象学的他者論の基礎づけである。この目的を達成するために、本研究は、以下の二つの研究課題を設定し、年度ごとにそれを達成するという計画を立てている。 研究課題A:現象学的他者論における「共同体」概念の網羅的研究 研究課題B:「共同体」の成立過程についての理論としての現象学的他者論の構想の提示 研究一年目に当たる2019年度は、研究課題Aに取り組んだ。そのために本研究は、まず現象学の創始者であるエトムント・フッサール(1859-1938)に立ち戻り、その「共同体」概念を明らかにするために、彼が1933年5月に執筆した書簡における「共同化(Vergemeinschaftung)」という言葉に注目した。彼はこの語を、記憶における過去の自己との共同化と、感情移入における他者との共同化の二つを表すために用いており、それによって形成されるものを「共同体(Gemeinschaft)」と総称している。そこで本研究は、フッサールの過去の講義録や草稿等を援用しつつ、このように広い意味をもった「共同体」概念への考察を通じて、他者との共同体の特徴を浮き彫りにすることを試みた。それによって明らかになったことは、他者との共同体すなわち「社会」が、過去の自己との共同化によって形成された「生の歴史(Lebensgeshichte)」が物語られる場としての役割をもつということである。 こうしてフッサール読解をもとにして指摘された「共同体」と「歴史/物語」との関連は、さらに、メルロ=ポンティ、アムスレク、ゴワイヤール=ファーブル、ガルディエ、レヴィナス等のフランス語圏の現象学者と比較され、その射程が検討された。そして以上の研究は、『立命館文学』への論文寄稿(2020年2月)、およびロイドルト『法の現象学入門』の翻訳への協力(作業中)につながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度の研究課題である〈現象学的他者論における「共同体」概念の網羅的研究〉は、概ね(1)その基礎となるフッサールの「共同体」概念の解明と、(2)それに関連する後年の現象学者の「共同体」概念の解明という二つに分けて達成された。これら二つの作業の成果は、論文投稿(「対話のような想起――フッサールの記憶論の展開に関する一考察」、『立命館文学』第665号、2020年2月)によって公表された。ただしこの論文の内容は(1)に重点を置いたものであり、(2)については、フッサールとの関連で、部分的に触れることしかできていない。(2)については、2020年4月に予定されていた北欧現象学会(Nordic Society for Phenomenology)での口頭発表("Normativity in Encounters with Another: A Hussserlian Point of View")によってさらに展開することを試みたが、残念ながら発表は認められず、また学会そのものも新型コロナウイルスの影響により中止となった。そのため、まだ(2)の成果を十分に公表できていないという点で、研究にはやや遅れが生じていると判断した。この遅れは、2020年度の研究によって取り戻すこととしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究は、2019年度の研究課題〈現象学的他者論における「共同体」概念の網羅的研究〉の成果を踏まえて、さらに〈「共同体」の成立過程についての理論としての現象学的他者論の構想の提示〉を行い、本研究の最終目的である〈「共同体」概念による現象学的他者論の基礎づけ〉を達成することを試みる。 そのために2020年度は、2019年度に引き続いて、S. ロイドルト『法の現象学入門』の翻訳への協力を進める。この著作では、「法」や「権利」という見地から共同体に言及している現象学者たちが多く登場しており、その翻訳への協力を通じて、フッサール以降の現象学者における「共同体」概念の網羅的研究の補完が期待される。 さらに2020年度は、単著『現象学的他者論』を執筆することを計画している。この単著においては、フッサールの「共同体」概念を主軸としつつも、他の現象学者との比較を通じて、本研究の独自の「現象学的他者論」の構想が提示される予定であり、本研究の集大成として位置づけられる。本年度の研究は、この単著執筆のための資料収集や研究発表によって推進される予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していたよりも本年度の物品費(主に書籍購入)と謝金(英文校正)の代金が少なかったこと、及び当初予定していた2020年3月の東京出張が新型コロナウイルスの影響により延期となったことが、次年度使用額の生じた主な理由である。これは、翌年度分として請求された助成金と合わせて、来年度に執筆予定の単著のための物品費、及び延期された研究会への旅費に充てられる予定である。
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