2019 Fiscal Year Research-status Report
17世紀イタリアにおける芸術家の学識とその評価に関する研究
Project/Area Number |
19K23030
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
倉持 充希 神戸学院大学, 人文学部, 講師 (60845303)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 芸術家の学識 / 17世紀イタリア / 読書 / 蔵書目録 / 伝記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀イタリアの芸術家の学識を、蔵書と同時代人からの評価という観点から分析する。2019年度は、芸術家の学識の標準レベルと理論研究の実態を明らかにすべく、17世紀にイタリアで活動した芸術家が参照することのできた書籍に関する量的調査に着手した。まず、芸術家および彼らと親交のあった愛好家の蔵書について、古文書からの書き起こしを経て刊行された財産目録・蔵書一覧等の文献を収集している。例えば、画家のデュランテ・アルベルティ、ニコラ・プッサン、アンドレア・サッキ、カルロ・マラッタ、建築家カルロ・マデルノらの目録である。彫刻家ジャン・ロレンツォ・ベルニーニに関しては、彼の死の翌年に亡くなった弟ルイージの遺産目録が現存しており、ベルニーニが参照しえた書籍として加えるなど、データの拡充を進めた。画家と親交のあった愛好家の蔵書としては、教皇を輩出したバルベリーニ家、美術収集家カミッロ・マッシモ、伝記作家ジョヴァンニ・ピエトロ・ベッローリらの蔵書を確認中である。 蔵書一覧の作成のため、目録に記載される各書籍について、著者名・題名・該当分野・出版言語等を判別しながらエクセルファイルにデータを入力している。本研究では、蔵書の中でも特に、主題を新たな仕方で解釈するために読まれた関連書籍(文学や聖書など)と、絵画における物語叙述の手法を研究するための叙事詩や悲劇に関する文芸理論に着目しているが、目録によって記述のレベルが異なるため、具体的な書名や版を特定できない書籍も見受けられる。しかし、今回データの集積を進めるなかで、芸術家・愛好家の蔵書目録を横断的に比較検討することで、彼らが参照しえた書籍のレパートリーの概要を把握しうることが確認できた。全体的な傾向については、後述するイタリアでの調査等を踏まえて分析し、次年度以降に総括する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度の調査対象である蔵書目録を収録する文献のうち、国内に所蔵がない書籍や購入が難しい希少本、現地で閲覧する必要がある一次史料等に関しては、2020年2月にローマを訪れ、美術史研究所のヘルツィアーナ図書館や古文書館等で閲覧・複写する予定であった。しかし、新型コロナウィルスの感染が拡大し、特にイタリアは非常に厳しい状況にあることから、2020年2月の現地調査は延期することにした。 代わって同年2月から、次年度の研究対象である伝記の収集を始めた。具体的には、マルヴァジアのFelsina Pittriceの英訳シリーズ(E. Cropper and L. Pericolo (ed.), London, 2012-)を購入し、最新の研究成果が反映された註を参照しながら読解を進めている。その他、フィリッポ・バルディヌッチ、ドメニコ・ベルニーニによる伝記や、アルプス山脈以北の芸術家伝としてカレル・ファン・マンデルの『北方画家列伝 注解』(邦訳)を入手した。
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Strategy for Future Research Activity |
まずイタリアでの調査について、2020年2月と同年9月に実施予定であったが、新型コロナウィルスの感染状況を注視しながら計画を練り直していく。2020年度中にイタリアでの調査が困難な場合、美術史分野の研究所や図書館があるヨーロッパの他都市で、二次文献を収集・閲覧することも検討している。 文献収集について、海外の書店からの購入図書の遅着等が予想されるものの、引き続き国内外の図書館の相互貸借・複写サービスやオンラインジャーナル等を活用する。ドイツの図書館によるドキュメント・デリバリー・サービスsubitoも積極的に利用し、ミュンヘン中央美術史研究所に所蔵される文献の複写をPDFファイルで入手する。 2020年度の研究対象である芸術家の伝記と美術理論に関しては、すでに個人で所有している書籍と2020年2月に科研費予算で購入した書籍から着手する。17世紀に出版された書籍は、デジタル版(図書館等が当時の書籍のページをスキャンし、電子書籍として公開しているもの)、リプリント版(当時の書籍を原本通りに複製して印刷したもの)、オンライン版(ウェブサイト上でテキスト検索ができるもの、詳細な注釈がつく場合もある)、注釈本、英訳・仏訳など、多様な形態が存在する。同時代人からの評価を分析するという本研究の目的を達成すべく、これらの諸版を適宜組み合わせて対応する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、2019年度の蔵書目録の調査のために、2020年2月にイタリア(ローマのヘルツィアーナ図書館や古文書館等)で文献収集等を実施する予定であった。しかし、世界各地で新型コロナウィルスの感染が拡大したことから、イタリアでの調査は延期することとし、旅費を次年度に繰り越した。 この2019年度の調査と、2020年9月に実施予定のイタリア調査については、新型コロナウィルスの感染状況を注視しながら計画を練り直していく。2020年度中にイタリアでの調査が困難な場合、美術史分野の研究所や図書館があるヨーロッパの他都市で、二次文献を閲覧することも検討している。
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Remarks |
倉持充希「スペイン式ドレスを脱がなかった王女たち―オーストリア・ハプスブルク家に嫁いだマリア・アナとマルガリータ・テレサの肖像画から―」、展覧会図録『ハプスブルク展』中田明日佳ら[編]、東京、国立西洋美術館、2019年、136-137頁(コラム) 倉持充希「絵画に描かれたクリスマス」、神戸学院大学地域研究センター 第6回大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ、2019年12月25日(一般向け講演)
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Research Products
(1 results)