2019 Fiscal Year Research-status Report
学習者コーパスの量的研究と質的研究を結びつける学習者を観察単位とした分析法の開発
Project/Area Number |
19K23033
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森 秀明 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (00847353)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 学習者コーパス / 学習者を観察単位とした新しい分析法 / 量的傾向の質的意味 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、統計的に有効な学習者コーパスの量的研究と質的研究を有機的に結び付ける分析法を開発することを目的とする。現在、日本語教育学では、母語話者や学習者の言語使用実態を明らかにする量的研究と、学習者が犯しやすい誤用等を収集する質的研究の2種類に大別されており、学習者の量的な特徴を基に、その原因を質的に解明する分析法は確立されていない。本研究では学習者を観察単位とすることによって、統計的に有効な分析を行うとともに、その分析結果の特徴を質的に解明する分析法の開発を目指している。
初年度である2019年度は、学習者を観察単位にすることによって、統計的に有効な分析ができることを検証する研究を行った。従来の量的な研究のほとんどは、均衡コーパスの分析法に倣った頻度合計を使用した分析が行われている。しかし、学習者コーパスはデータを採取した学習者数が少なく、無作為抽出も行われていないため、わずか数人の外れ値で分析結果が歪んでしまうことが考えられる。これを検証するため、KYコーパスの単語頻度合計を基に初級シラバスの選定を行った山内(2009)『プロフィシエンシーから見た日本語教育文法』(ひつじ書房)の分析結果と、学習者を観察単位としたKYコーパスの再分析結果、および、『多言語母語の日本語学習者横断コーパス』(I-JAS)第四次データを使用した分析結果を比較した。この結果、頻度合計が数十語に留まる言語項目では、学習者単位に直すと数名分にしかならず、ごく少数の学習者の特徴を習得レベル全体の特徴と捉えてきた実態が明らかになった。また、I-JASは、一つの母語に対して、一つの調査機関でしか調査が行われていないデータが多く、分析結果から得られた特徴が、母語の影響なのか、使用教科書などの教育法の影響なのか、判断が難しいことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度の分析では、I-JAS第四次データを使用したが、2020年3月25日にI-JASの完成形である第五次データが公開された。追加されたデータは1050名中、175名分であり、これまでの分析結果とそれほど大きな変化はないと思われるが、これまで行ってきた分析をもう一度第五次データを使用して分析し直すべきか考慮中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、I-JAS第五次データを使用し、条件表現「ト・バ・タラ・ナラ」の使用実態と学習者特性について調査する予定である。学習者を観察単位とした場合、これらの条件表現にはどのような量的な特徴が見られるのかを分析し、「フェイスシート一覧」の情報を利用することでその特徴がどのような学習者特性によるものかの解明を目指す。また、特徴的な使用傾向を示す学習者の用例を観察し、より詳細な質的調査を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額のほとんどは学会等参加のための旅費であり、これは新型コロナウイルスの影響によって、参加予定だった学会等の開催が中止されたことによる。本年度も旅費の使用がほとんどできない可能性があるため、転用が可能な予算を書籍等の購入に充てる予定である。
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