2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of the present-day phonological systems in Slavic languages
Project/Area Number |
19K23034
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡部 直也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (30846671)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 言語学 / 音韻論 / スラヴ語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に続き、ロシア語のアクセントパターンの変異について考察を進めた。動詞のアクセントについては、名詞のアクセントと同様に、使用頻度の高い語において移動アクセントが生じやすい傾向が確認された一方で、活用パターンによるアクセントの差異も重要であることがわかった。 次に、ウクライナ語の母音交替について分析した。同言語では、開音節の[e, o]が閉音節では[i]に交替する現象(以下、高段化とする)が特徴的である。現象の生じ方にはゆれが見られるが、調査の結果、頻度の高い語で交替が生じやすいことが判明し、先行研究で指摘されてきた傾向と合致した。さらに、母音削除が生じている場合について、ほとんどの場合は閉音節で[e, o]が観察され、高段化も同時に生じたと考えられる[i]の表出は例が非常に少なかった。こうした状況について、主に言語獲得の観点から、音韻現象の要因が何らかの形で表出することが求められることを主張した。 このほか、感染症の影響で遅れていた、ポーランド語・チェコ語などに関する資料収集を行った。また、令和4年2月に始まったロシアによるウクライナ全面侵攻以降におけるウクライナ国民の避難による言語状況の変化についても調査を開始した。 研究期間全体を通じて、言語データを正しく予測できるモデルを構築してきた。特に語の使用頻度が及ぼす影響について考察し、頻度の高い語彙は「中心的」に位置付けられ、有標なパターンが回避されやすい一方で、頻度の低い「周辺的」な語彙については音交替を禁じる制約が優先されるものと論じた。さらに、表層における音形から音韻現象が説明できない「不透明性」についても議論を進め、理論上は可能であるが回避される傾向を指摘した。
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