2019 Fiscal Year Research-status Report
労働者階級出身の作家ウェストールによる児童文学作品の日英における受容の比較研究
Project/Area Number |
19K23045
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
瀧内 陽 愛知県立大学, 外国語学部, 講師 (00846701)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | イギリス児童文学 / 日本児童文学 / 翻訳研究 / 受容研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イギリスの労働者階級出身児童文学作家ロバート・ウェストールの作品について、各国文学の枠組みを超え、日本という異なる文化圏での翻訳・受容を分析する。そこから、日英それぞれの児童文学の特質を明らかにすることを目的とする。 2019年度は、おもに日本におけるウェストール作品の翻訳と受容に関する研究を行った。9月に東京にある国立国会図書館国際子ども図書館で資料調査と収集を行い、分析を進めた。ここまでの研究成果を2019年12月1日に日本イギリス児童文学会の第49回研究大会(東洋大学白山キャンパス)で「ロバート・ウェストール『“機関銃要塞”の少年たち』の日本における受容」という題で発表した。ウェストールは日本でよく読まれている児童文学作家だが、本研究以前には、受容史研究は行われていなかった。この研究発表ではウェストール第一作『“機関銃要塞”の少年たち』(The Machine-Gunners, 1975)の受容を分析することにより、日本ではイギリスでの受容と異なり、戦争を描いている点に特に注目が集まっていること、日本児童文学における戦争児童文学の存在が『“機関銃要塞”の少年たち』受容を特徴づけていることを明らかにした。この分析結果は、ウェストール作品の日英における受容の相違を理解する上で、当初本研究が予想していた児童文学界における労働者階級や左派イデオロギーの相違という観点とは異なる視点からの研究も必要であることを示唆している。そのため、2020年度は、階級に加え戦争の描き方とその受容という点にも注目し研究を進めていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、本研究課題は、概ね当初の計画通りに行われている。まず、ウェストール作品の翻訳の分析を行い、翻訳によって何が変更されているのか、あるいは、どのようにしてもとの文章の特徴が再現されているかを明らかにするため、ウェストールの1970年代の代表作『“機関銃要塞”の少年たち』を分析した。また、日本におけるウェストール作品の受容とその背景を明らかにするため、2019年9月に東京にある国立国会図書館国際子ども図書館で資料調査と収集を行った。以上の研究成果を2019年12月1日に日本イギリス児童文学会の第49回研究大会で発表し、この学会では他の研究者から有益な情報を得ることもできた。このように、本研究は計画通り進んでいたが、2020年3月に予定していた東京での資料調査は、新型コロナウイルスの流行により中止となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
予定としては、日英におけるウェストール作品受容の比較研究を進めるため、2020年8月頃、イギリスのニューカッスルにある国立児童文学センター(the National Centre for Children’s Books)、ロンドンの大英図書館等で調査と資料収集を行い、2020年9月頃、東京の国際子ども図書館で再度資料調査を行う。以上の研究成果を2020年12月頃に日本比較文学会中部支部の研究発表会で発表し、2020年度中に英語論文を完成させ国際誌に投稿する。 しかし、新型コロナウイルスの流行により、現時点の状況では、国内外への出張を行うことができない。また、国内の各学会の研究発表会等も中止があいつぎ、学会での情報交換も当面は行うことができず、すでに5月に予定していた日本比較文学会中部支部での研究発表は12月に延期になるなど、今後の研究活動への影響が予想される。
|
Causes of Carryover |
3月に予定していた東京での資料調査が新型コロナウイルス流行の影響で延期となった。また、当初の予想と異なる分析結果が出て研究計画の再検討を行ったために文献等の購入を一部次年度に延期した。 2020年度には、延期となった調査旅行をふくめて国内2回、イギリス1回の資料調査を予定、文献等資料の購入、英語論文の校正費用とオープンアクセス費用、等の支出予定があり、2019年度分を合わせて使用する予定。
|