2020 Fiscal Year Research-status Report
清代における「薛家将」故事の発展と拡大に関する研究
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19K23053
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
柴崎 公美子 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (70844140)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 清代 / 中国通俗文芸 / 家将小説 / 羅家将 / 薛家将 / 家将もの / 説唐 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2019年度に引き続き、「薛家将」物語と関わりの深い「羅家将」物語に関する考察を行なうべく、「英雄の悲劇的な最期」および「報復」の概念にフォーカスして羅家将の英雄たちの物語を読み解いた。「報復」については、2019年度に考察した『羅通掃北』の中心テーマとも言えるものなので、「報復」が誰によるもので、何に発し、どのような結果をもたらしたかを中心に分析した。その結果、『説唐全伝』、『説唐後伝』、『説唐三伝』といった「説唐系列小説」とも言うべき一連の小説群には、羅通をめぐる報復の経路が網の目のように広がっていることが確認できた。そして、その報復が、本来は別系統の物語であったはずの「興唐物語」と「薛家将」物語とを結び合わせ、「説唐系列」小説をシリーズものたりうる形に成立させていることを明らかにした。例えば、羅通による羅成のための報復は「興唐物語」と「薛仁貴征東物語」を結びつけ、羅通が弟を殺害した屠炉公主を死に追いやった行為は薛丁山征西物語『説唐三伝』で報いとなって羅通の命を奪った。それだけでなく、本来は征西物語における薛家将の敵であった蘇宝同が、羅通の報復を経て羅家の敵に変更させられるということまで起こっていたのである。こうした、「報復」を推進力として異系統の物語同士を結びつける創作行為が見出されたことが、今年度の本研究の大きな成果である。この研究をまとめたものが論文「「説唐」小説における物語の連続と増殖― 羅家の「報復」をめぐって ―」であり、2020年12月発行『中国文学研究』第四十六期(早稲田大学中国文学会)に投稿し、査読を経て掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度推進方策として挙げたもののうち、 2)2019年度に収集した資料の整理、検討 3)日本国内に所蔵される『説唐前伝』『後伝』『三伝』の版本の閲覧、収集 といった作業を進めることができなかった。2)が進められなかった理由としては、『羅通掃北』の「報復」を主軸とした小説研究に時間をかけたということがある。3)はCOVID-19の流行による影響で研究環境が整わず、実施に至れなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年に実施できなかった2019年度収集資料の整理、検討を行う。研究の視角の一つとして挙げた「家将もの」研究については「羅家将」物語研究である程度の成果を得たので、民間芸能の方面の研究を進めたい。2019年度に収集した資料のうち、台湾所蔵の抄本「鎖陽関」の読解に取り組み、清朝宮廷演劇や地方劇における薛家将劇との比較考察を進めたい。また、日本国内に所蔵される版本についても、郵送などといった直接訪問せずに入手する方法を模索し、収集、閲覧に努めたい。
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Causes of Carryover |
予算の大部分を旅費と資料収集費に当てているが、COVID-19の流行により国内外の移動が禁止、あるいは自粛となった時期が続き、全く予算消化できなかった。 次年度は郵送複写を依頼するなどして、移動せずに資料収集する方法を模索する。
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Research Products
(1 results)