2019 Fiscal Year Research-status Report
津島佑子の文学における自然・動物の表象についての研究
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19K23071
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 克尚 (村上克尚) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80765579)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 津島佑子 / 動物 / 環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、津島佑子の中期作品を軸としつつ、同時代の言説を調査し、両者のあいだにどのような関係を見出せるのかという観点から研究を進めた。 その一つの研究成果が、「動物から世界へ――津島佑子「真昼へ」におけるアイヌの自然観との共鳴」(『言語社会』14号、2020年3月、112-128頁)である。本論文では、津島の「真昼へ」(『新潮』1988年1月)を取り上げ、長男の死という契機が、初期作品からの動物の主題に大きな転換をもたらし、後期作品へと繋がる世界像の転換を導いたことを論じた。さらにこの転換が、津島が以前から関心をもって学んでいた、アイヌの自然観と共鳴するものだったことについても言及し、津島作品をより大きな同時代の文脈に開く可能性を示した。 津島と直接関わるものではないが、「交わらなかった議論――吉本隆明『「反核」異論』をめぐって」(『原爆文学研究』18号、2019年12月、116-127頁)では、津島の中期作品と同時代に起こった反核をめぐる言説を整理するとともに、「踏み外した海にたゆたう――古川真人「ラッコの家」論」(『文學界』74巻3号、2020年2月、197-209頁)では、現代文学のなかで動物の主題がいかに社会の暴力と拮抗するものとして描かれているかについて考察した。 また、パネル発表「憑在論で読み直す〈語り〉――亡霊的なもの(たち)との邂逅」(第7回 東アジアと同時代日本語文学フォーラム、台湾・東呉大学、2019年10月27日)、「日本文学と動物――ジェンダー・肉食・震災」(三学会合同国際研究集会、二松学舎大学、2019年11月24日)にそれぞれ、司会・ディスカッサントとして参加し、理論的な次元での議論を通じて、本研究に活かすことのできる有益な知見を獲得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
津島佑子の中期作品に関する、テクスト分析、文献収集などはおおむね計画通りに進行している。学会やシンポジウムなどへの参加を通じて、津島の文学に関心がある研究者たちとのつながりも形成されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度も引き続き、津島の中期作品についての分析、ならびにその研究成果の発表を意欲的に行なっていきたい。唯一気がかりなのは、コロナウイルスをめぐる状況のなかで、予定されている研究会やシンポジウムが無事に遂行できるかということだ。最悪の場合でも、インターネットを介したツールを使って、代替の議論ができるように工夫していきたい。
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Causes of Carryover |
2,3月に予定していた研究会が中止になり、未使用のままとなった。今年度も出張の可能性が不透明なため、未使用分は書籍等の物品購入に振り分けたい。
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Research Products
(5 results)