2019 Fiscal Year Research-status Report
忘却と継承―中国古典怪奇小説集『聊斎志異』の日本受容史と「聊斎話」の再発見
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19K23075
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
陳 潮涯 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (60845361)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 聊斎志異 / フェミニズム / 香港映画 / ソフトポルノ / 武田泰淳 / 十三妹 / 戦う女 / 強い女 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は戦後大衆文化における『聊斎志異』の受容状況と、一見『聊斎志異』から直接に取材しないが、実際に「聊斎話」の翻案である作品をめぐって考察を行った。 大衆文化における『聊斎志異』の受容問題に関して、日本戦後の映画、歌舞伎、漫画、アニメの中で『聊斎志異』の相関作品を整理した上に、主に50年代から90年代前半まで公開された『聊斎志異』の相関映画と、これらの映画の製作背景、影響、評判を考察した。『聊斎志異』の映像化の傾向は一見大きく変化したが、ヒロインを中心にし、女性を優位に立たせるという核心的なものが変わらない。さらに、急速に拡大したビデオ市場を狙い、80年代後半から香港製作の『聊斎志異』の三級映画(ポルノ映画)は大量に日本に輸入された。これによって、ソフトポルノとしての『聊斎志異』は日本の大衆文化に定着しつつある。一方、『聊斎志異』映画やビデオにおける性描写は、男性が性を主導する固有観念を破れ、セックスにおける男女差別を反論していたフェミニズムの風潮と合流した。この点は、近年中国側の先行研究に指摘された『聊斎志異』のフェミニズム問題と一致しており、大衆文化と文学研究の接点として考えられる。 そして『聊斎志異」から直接取材しなかったが実際に「聊斎話」の翻案だと判明できた作品に関して、武田泰淳の『十三妹』を取り上げて研究した。『十三妹』と『聊斎志異』の共通性は、『聊斎志異』の「侠女」との比較、また、武田自身の『聊斎志異』評論からうかがうことができる。『十三妹』は『聊斎志異』から人間男性vs人間以外の女性という図式を継承し、70年代において初めて中国の「女侠」形象を作り出し、「強い女」を通じて人間男性の無能さと醜さを表現した。人間社会の規範から逸脱して周りに理解されないままに、弱い男性を守るヒロイン像は、武田泰淳が『聊斎志異』から引き受けたフェミニズムの結晶ともいえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年12月まで、当初の計画とおりに研究は進んでいた。戦後日本における『聊斎志異』の翻訳、翻案、アダプテーションを整理し、各時期における『聊斎志異』の受容状況とその変化を把握することができた。さらに、「聊斎話」の映像化状況から、中国側に指摘された『聊斎志異』の女性観が当時日本におけるフェミニズムの台頭と合流したということも明らかになった。この点を着目し、日本の大衆文化がどのように『聊斎志異』を理解し、またいかに『聊斎志異』を自己流に利用したか、など一連の問題も解明できるだろう。そして、「聊斎話」の翻案問題については、中国文学研究者出身ないし中国趣味を持つ文学者たちが創作した作品に着手し、今まで指摘されていない武田泰淳の文学と『聊斎志異』との意外な関連性が見つけ、『聊斎志異』の翻案史を補充することができたと思われる。日本の大衆文化における『聊斎志異』の翻案やアダプテーションの問題に関する研究は順調に進んでいる。 しかしながら、2020年1月に入った後、新型コロナの影響で中国側の学会、研究者との交流はほぼ中断している。申請した学会が全部キャンセル、あるいは延期された一方、『聊斎志異』に関する中国からの資料も手に入らない状況になってしまった。さらに、4月に入った後、政府から発令した緊急事態宣言に伴い、日本の大学図書館や資料室もほぼ全部閉鎖され、その結果、日本で調査を行うことも不可能になった。ゆえに、この影響を受け、現時点(2020年5月末)まで、日本における『聊斎志異』の流通版本の調査、日本・中国の流通版本の比較など、日中両国の原書、原典で確認しなければならない版本問題に関する研究は中断に追い込まれた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進歩状況が示したように、新型コロナの影響を受け、日・中両国の原書と原典の調査を中心とする版本問題の研究は一時的に中止しなければならない。そのかわりに、電子図書、論文データベースなどを利用して考察できる諸問題を予定より早めに進んでいきたい。したがって、今後の研究は主に以下のいくつかのテーマをめぐって行う。 第一は、『聊斎志異』の翻案小説である。これに関して、前年度の研究方法に従い、中国文学研究者と中国趣味を持つ文学者の作品を取り扱う。緊急事態宣言の発令のため、各図書でこれらの作品を直接的に見ることができなくなるが、国会国立図書館デジタルコレクションを利用して目録を作り、また、重要な図書と資料をネット通販で購入するなど方法を考えて考察を進める。 第二は、戦後から今まで、日本側の『聊斎志異』研究の傾向と変化をまとめる。この問題もCiNiiなど論文検索システムを利用して調査が可能である。日本側の『聊斎志異』研究の特徴を解明するため、同時期海外、特に中国側の研究を見ることが必要であるが、今の段階で中国論文検索システム「知網」「萬方」を使って中国研究者の論文を集めて分析を行う。 第三は、日本の大衆文化において、特にアニメ、漫画の中で『聊斎志異』ないし「聊斎話」相関要素の利用状況を考察し、今まで指摘されていない、若年層の流行と中国古典の再利用との影響関係を解明する。このテーマに関する資料収集の作業はすでに完了したため、コロナの影響を受けずに研究を進めることができる。
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Causes of Carryover |
(当該助成金が生じる状況) 当該年度に、戦後『聊斎志異』の受容状況を考察し、その考察結果を基に中国武漢で開催される二つの学会(「古代小説與中國社會」「中國外國文學學會日本文學研究會第17屆年會國際學術研討會」)において発表する予定であったが、コロナの影響で学会が延期された。また、中国側の研究者を招いてシンポジウムを開催する計画もやむを得ず中止した。そのため、旅費、資料費、人件費の未使用額が生じた。 (次年度の使用計画) 日本で流通する『聊斎志異』の各貴重版本の収集と、7月以降国際学会、シンポジウムの発表を行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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Research Products
(3 results)