2020 Fiscal Year Research-status Report
忘却と継承―中国古典怪奇小説集『聊斎志異』の日本受容史と「聊斎話」の再発見
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19K23075
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
陳 潮涯 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (60845361)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 聊斎志異 / 武田泰淳 / 森敦 / ポップカルチャー / フェミニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に今まで言及されていない、戦後日本における『聊斎志異』の受容問題に重心を置き、主に『聊斎志異』の利用問題、『聊斎志異』が戦後日本作家に与える影響、『聊斎志異』と日本のポップカルチャーなどの諸問題について研究を進めている。 1.ヒロインが男性より強い、神秘な戦う女性である、武田泰淳の武侠小説『十三妹』と『聊斎志異』との影響関係を解明した。そこから日本70年代のフェミニズム運動、「戦う女」像の問題も浮上する。中国古典作品と当時日本の社会運動との関連性が注目され、中国古典がいかに時流に応じて利用されていたのかがわかった。 2.森敦の『私家版聊斎志異』をめぐり、戦争と時代を表現する『私家版聊斎志異』の独自性を解明し、森敦の『聊斎志異』評価と受容を見、さらに森敦の幼年時代を遡って彼の文学世界と中国古典との関連性を解明し、『聊斎志異』とその翻案である『私家版聊斎志異』が森の文学世界にあらためて位置付けることができた。 3.『聊斎志異』の名編、「画皮」がいかに中国古典戒色小説から日本の「画皮妖怪」に変容し、さらに手塚治虫、水木しげるなどの漫画家に利用され、マンガ、アニメ、映画などの様々な大衆文化に定着したのかを解明した。これによって、中国文学知識をほとんど持たない日本の読者や観客が実際に、日常の中に『聊斎志異』のような中国古典と接触し、その影響を受けていることがわかった。 4.『聊斎志異』名編に新たな解釈を与える『聊斎志異』論の執筆が始まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の中で、都市間の移動そして海外への渡航は厳しく制限されている。特に中国への渡航は、様々な手続きが要求され、さらに目的地で二週間以上の集中隔離を受けることが必要である。そのため、特に中国側の学会、シンポジウムに参加することができなくなり、中国で資料収集と現地調査もできない。そのため、『聊斎志異』の版本問題、特に中国の現存版本と日本の流通版本との比較に関する研究はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
『聊斎志異』の日本受容状況に重心を置いて研究を進めていくことを考えている。具体的に、以下のような三つの問題点を注目したい。 1.作品と作品の間の影響関係。『聊斎志異』翻案と名乗っていない日本文学作品と『聊斎志異』の関連性を考察する。 2.作者と『聊斎志異』の影響関係。「聊斎癖」と自称する日本作者は、どのような独自な『聊斎志異』翻案を創作し、そして『聊斎志異』が彼らの文学世界にどのように位置付けることができるのかを研究する。 3.ポップカルチャーにおける『聊斎志異』の受容および影響。 それ以外、『聊斎志異』の版本問題の考察の代わりに、古典作品に新たな解釈を与えることを目的とする、『聊斎志異』論の執筆を行う。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由) コロナの影響で、海外への渡航は控えめにしたため、中国側の学会やシンポジウムに参会することができなくなり、現地での資料収集もできない。また、日本側の学会もオンラインで参会することが多かった。そのため、旅費、人件費の未使用額が生じた。 (使用計画) 『聊斎志異』論の校閲の業務請負、日本における『聊斎志異』各翻訳版本の購入、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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Research Products
(2 results)