2019 Fiscal Year Research-status Report
平安時代の歌集及び『源氏物語』の贈答歌についての研究
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19K23077
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
北原 圭一郎 香川大学, 教育学部, 講師 (50848471)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 源氏物語 / 贈答歌 / 返歌 / 後撰集 / 人物造型 |
Outline of Annual Research Achievements |
平安時代における贈答歌の実態、特に贈歌・返歌の詠み方の法則性を歌集をもとに明らかにすること、『源氏物語』の贈答歌が人物描写などの方法としてどのように利用されているかを明らかにすることの2点を課題として研究を進めた。まず、前年度からの研究を引き継いだ成果として、三代集の贈答歌について主に返歌の詠み方という点から考察した①「『古今集』『後撰集』の贈答歌の方法―贈答歌採録基準の差異を中心に―」(『国語と国文学』96(10)、2019年10月)、賢木巻の唱和歌に焦点を当てつつ兵部卿宮の役割を考察した②「兵部卿宮と光源氏―賢木巻を中心に」(藤原克己監修、高木和子編『新たなる平安文学研究』青簡舎、2019年10月)を発表した。今年度から新たに進めた研究としては、若菜上巻の二組の贈答歌に焦点を当てて光源氏と紫の上の関係を考察した③「若菜上巻の紫の上―光源氏との贈答歌を中心に」(『香川大学国文研究』44、2019年9月)を発表した。③においては、贈答歌の形式や内容面での特徴を明らかにするだけでなく、それを地の文で語られた状況や人物の心情との関連で捉えるという観点から考察し、物語の重要な転換点である女三の宮降嫁以後の光源氏・紫の上の内面の変遷をより詳細に明らかにできたと考えている。今後もこのように、物語内の贈答歌の特徴を歌集などの例に照らして明らかにするとともに、それを通して物語の読みをどのように深められるかという点から、考察を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の2つの目標である、贈答歌の実態究明と物語の贈答歌研究それぞれについて、互いに関連させつつ成果を上げることができたため。特に、勅撰集の贈答歌について、返歌が贈歌の表現を受け継ぎつつどのように反発する内容を導き出しているか、という新たな観点から分析し法則性を明らかにできたことで、物語の贈答歌の特徴や虚構性を明らかにするための有効な視点も得られた。引き続き、2つの研究を関連させつつ進展させていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平安時代の勅撰集や私家集をもとに考察をしてきたが、今後は『万葉集』の贈答歌にも対象を広げて分析する。『万葉集』の初期的な贈答歌のあり方と比較することによって、平安時代の贈答歌の特徴がより明確になると考えている。 また、物語作品としては、『源氏物語』のみならず前代の歌物語などにも視点を広げ、贈答歌を人物の心情や関係性の描写に利用する方法がどのように見られるかを考察する。現在は『伊勢物語』について論文化の準備を進めている。『源氏物語』についても、現時点で考察の進んでいない巻(須磨・明石巻や玉鬘十帖など)にまで範囲を広げて考察する予定である。
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Causes of Carryover |
使用しきれなかった出張費と一部の物品費を、次年度に必要な出張費・物品費に回す。
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