2019 Fiscal Year Research-status Report
1970・80年代香港における台湾文学の受容:文学の翻案行為に注目して
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19K23078
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
八木 はるな 高崎経済大学, 地域政策学部, 特命助教 (40845806)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 台湾文学の系譜 / 白先勇文学の受容 / 「台北人」表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付内定をいただいた令和元年10月以降、妊娠初期の体調不良が続き、海外渡航が難しく、当初の計画通りに研究を遂行することが叶わなかった。ゆえにこの半年間は、主に香港の歴史と「香港意識」をめぐる言説の変遷について今以上に知見を深めることに注力した。それでも「台湾文学の受容」に関わる研究成果として、次の中国語論文を国際ワークショップにて発表した。 八木春奈「為了傳達「我們」的疏離感:台灣文學中的「台北人」系譜」(「跨・界――第三屆 戰後亞洲文學與文化傳播國際工作坊」2020年3月於横浜国立大学(ただし新型コロナウイルス対策の関係で書面発表、オンライン対話のみ))。 この論文は、華語社会で最も広く読まれている台湾作家・白先勇の文学が、台湾文学界においていかに受容されているかを考察したものである。白先勇の代表作の一つである小説集『台北人』の中の「台北人」表象に着目し、彼と同時代に活躍した女性作家や、昨今の台湾で人気を博す若手作家たちが、どのような時に白先勇『台北人』を意識しながら、新たな「台北人」の表象に挑むのか、という問いに対して答えを出した。最終的に、台湾の作家たちは「台北人」として疎外感を感じた時に、疎外されるマイノリティであるという当事者意識を持った時に『台北人』を読み直し、新たな「台北人」表象に挑むのではないか、という結論を得た。この研究成果は、本科研の課題の一つである「香港における白先勇文学の受容」を明らかにするための重要な先行研究となりうると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
交付内定をいただいた令和元年10月以降、妊娠初期の体調不良が続き、海外渡航が難しく、当初の計画通りに研究を遂行することが叶わなかった。後半も体調への配慮、また新型コロナウイルスの影響もあり渡航による調査が叶わなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年3月中旬より産休・育休に伴う研究中断期に入っており、研究の再開は令和3年4月を予定している。 本研究はもとより、次の三段階で進める計画を立てていた。 本研究では、香港アイデンティティ形成期の実態に迫るために、まず、台湾文学の翻案劇について分析する。先行研究を参照 にしつつ、香港公共図書館等での文献調査はもとより、各劇団の後身団体に調査を依頼し、さらに応募者がこれまで台湾研究 分野で培った人脈をもとに、各劇団の当時の座長と戯曲化を担った作家たちへの接触を図る。聞き取り調査と脚本入手を試み たうえ、3作家の翻案劇に込められた制作意図を比較分析し、当時の香港の若い知識階層にとって台湾文学とは何だったかを 明らかにする。次に、特に70年代前半の香港で盛んになった台湾文学の映画化について、当時の新聞・雑誌の映画評を分析す るとともに、興行成績を調べ整理し、香港市民たちの台湾文学受容の諸相に迫る。最後に、1970・80年代の香港における台湾 文学作品の出版状況について、書評等の言説を分析するとともに、販売部数等を調べ整理し、香港における台湾文学の受容に ついて総括する。そうして、香港アイデンティティ形成期の実態を紐解いていきたい。 研究再開後は、以上のうちの第一段階、「台湾文学の翻案劇についての分析」から着手する予定である。 同時に、可能な限り育児休暇の間に、残りの交付期間で本研究課題をまとめられるよう、研究計画の見直しや修正を行いたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、妊娠による体調不良および新型コロナウイルスの影響で海外渡航が難しく、当初の計画通りに研究を遂行することができなかったため。次年度使用額は研究再会後、現在までの遅れを取り戻すべく、研究をより円滑に遂行するために必要な人件費等に使用する予定である。
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Remarks |
(書評)八木はるな「取るに足らない男たちの深遠なる迷走劇」『東方』463号、30-34頁
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