草双紙を中心とする酒呑童子説話の享受と展開に関する書誌学的・文学的調査と研究

2020 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K23086
• Research Institution: Nihon University
• Principal Investigator: 荒川 真一 日本大学, 文理学部, 助手 (40844006)
• Project Period (FY): 2019-08-30 – 2022-03-31
• Keywords: 酒呑童子 / 草双紙 / 赤本 / 黒本青本 / 黄表紙

Outline of Annual Research Achievements

令和2年度は令和元年度にリスト化した酒呑童子関連資料を基とした資料の調査・収集と整理、及び分析が中心となった。具体的には、舞鶴市糸井文庫に所蔵される、酒呑童子が関連する版本・写本類の書誌調査を中心に行った。本調査にあたっては、糸井文庫閲覧システムにて、事前に確認を行ったうえで、書誌調査に赴き、資料の実見・撮影を行った。調査数は110点余りであり、一部資料については所蔵機関の展示との兼ね合いから調査が行えなかったが、調査カードの整理、及び資料間の関係性について、検討を進めている最中である。
また、令和2年度中の公表を予定していた勝川春常画『大通（仮題）』、朋誠堂喜三二作・喜田川行麿画『鬼崛大通話』、飛田琴太作・古阿三蝶画『大江山二期栄』、富川吟雪画『大鉞御存知荒事』の翻刻・注釈については、舞鶴市糸井文庫の調査を経て、新たに調査を行う必要が生じたため、公表には至らなかったが、令和3年度中に公表できるよう、準備を進めている。
本研究では、酒呑童子を題材とする二次創作物のうち、大衆文芸である草双紙を中心に分析することで、近世民衆が抱いた酒呑童子像を具体化し、近世民衆の思想の諸相のみならず、〈文学〉と〈権力〉の間の相互関係についても明確化することを目的としている。令和2年度の調査を経て、令和元年度に整理した酒呑童子関連資料のリストのほかに、新たに調査すべき資料が相当数存在することが明らかとなった。令和元年度・令和2年度に調査・分析できた資料が、どのような影響関係、社会背景のもとに成立したのかについての分析は、令和3年度の課題とする。引き続き資料の収集・分析を継続し、今後の研究の進展に繋げることとする。

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

令和元年度は酒呑童子が関連する草双紙の全体像を把握するため、各所蔵機関に具体的にどのような資料が所蔵されているかを、各種データベースを参照し、流布状況の整理を行った。また、所蔵機関の整理と並行し、画像資料の収集を行った。これら収集した画像資料は、書誌調査を行う際に、必要な情報の見落としを防止するための重要な資料となるものである。収集した画像資料を確認の上、東北大学附属図書館狩野文庫に赴き、関係資料の書誌調査を行った。
令和2年度は令和元年度にリスト化した酒呑童子関連資料を基とした資料の調査・収集と整理、及び分析が中心となった。具体的には、舞鶴市糸井文庫に所蔵される、酒呑童子が関連する版本・写本類の書誌調査を中心に行った。本調査にあたっては、前年度の方法と同様に、糸井文庫閲覧システムにて、事前に資料の画像確認を行ったうえで、書誌調査に赴き、資料の実見・撮影を行った。調査数は110点余りである。京都大学、天理大学など、酒呑童子関連資料を多数所蔵しているが、これらについては令和2年度中に書誌調査に赴くことができなかった。
また、令和2年度の調査を経て、新たな資料の調査を行う必要が生じた。新型コロナウイルス感染症拡大の関係から、調査に制限が設けられる可能性もあるため、引き続き、インターネット上の画像資料の収集を継続する。また、これらを分析しつつ、可能な限り、資料を実見のうえ、初刷・後刷・再版など、資料間の関係性を見極め、最善本となる資料を確定し、翻刻作業を進めていく予定である。

Strategy for Future Research Activity

令和3年度は令和元年度、令和2年度の調査・研究において、未見資料の書誌調査、及び調査・収集した資料のデータの整理、及び体系化を目指す。令和2年度における舞鶴市糸井文庫の調査により、酒呑童子関連資料の大半の書誌調査を行うことはできたが、調査カードの整理、及び資料の関係性の分析については充分に行うことはできなかった。令和3年度は令和元年度から令和2年度にかけて収集した調査カードの記録をもとに、どのような影響関係、社会背景のもとに成立したのかについての分析を中心に行う。酒呑童子が関連する伝承が残る場所へのフィールドワークも実施し、考察へと繋げることとする。
また、令和2年度中の公表を予定していた勝川春常画『大通（仮題）』、朋誠堂喜三二作・喜田川行麿画『鬼崛大通話』、飛田琴太作・古阿三蝶画『大江山二期栄』、富川吟雪画『大鉞御存知荒事』の翻刻・注釈については、舞鶴市糸井文庫の調査を経て、新たに調査を行う必要が生じたため、公表には至らなかったが、令和3年度中に公表できるよう、準備を進めている。この他の酒呑童子関連資料についても、資料を実見のうえ、初刷・後刷・再版など、資料間の関係性を見極め、最善本となる資料を確定し、資料の体系化と並行し翻刻・注釈作業を進めていく予定である。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大の関係から、調査に制限が設けられる可能性もあるため、引き続きインターネット上の画像資料の収集は継続する。

Causes of Carryover

本研究では酒呑童子が関連する草双紙の全体像を把握するために、悉皆的な資料の書誌調査を行う予定であり、そのための旅費を中心に予算組みをしていた。しかし、令和元年度は書誌調査のための事前準備として、各所蔵機関に具体的にどのような資料が所蔵されているかを、各種データベースを利用し、流布状況の整理を行ったが、この整理作業に時間を掛けすぎてしまった。また、令和2年度は新型コロナ感染症拡大に伴う校務の増加により研究時間の削減を余儀なくされ、また各種研究機関の閲覧制限、遠隔地への移動の自粛要請等により、実地調査を中心とする本研究においては、当初の研究計画の変更ないしは延長せざるをえなかった。その結果、遠隔地への書誌調査として実施できたのは、舞鶴市立糸井文庫のみとなり、天理大学など、酒呑童子関連資料を多数所蔵する機関への調査が実施できなかった。結果として、当初の予定よりも予算が余ることとなってしまった。
令和3度は令和元年度、令和2年度に実施できなかった各研究機関への書誌調査を早急に実施し、資料の収集を継続する。また、酒呑童子が関連する伝承が残る場所へのフィールドワーク、論文執筆のための図書・資料費として、今年度予算を使用する予定である。