2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K23098
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 山海 北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (20845036)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 神聖ローマ帝国 / 人文主義 / 連邦制 / 共和主義 / 近世ドイツ史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、法学者ヘルマン・コンリング(1606~81年)の思想の分析を通じて、近世ドイツ連邦制の形成過程における、共和主義の影響を検証することである。コンリングは、オランダ留学を通じ、同地で隆盛していた新ストア派の人文主義思想を受容した。帰国後、彼はヘルムシュテット大学で教鞭を執るともに、複数の福音派諸侯の顧問官として活躍した。 コンリングは、共和主義に基づく国制論を展開し、帝国の連邦制的性質を指摘した。彼は、帝国議会での投票権を有する諸侯、すなわち「帝国等族」を「市民」と見なし、帝国の国制を彼らによって構成される共和政であると見なした。そこから、帝国等族は領邦の統治者、すなわち地域の代表者であるから、帝国はこれら領邦の連合体、すなわち連邦制であると解釈するのである。 本研究では、かかるコンリングの思想を「連邦共和主義」と定義した。帝国等族はこれを理論的支柱として、皇帝の志向する中央集権的な国家形成を阻止し、帝国の連邦制的性質の維持を試みたとする仮説を立て、その検証を行う。 本年度においては、以下3つの活動を実施した。第一に、コンリングの生涯と思想について、先行研究に基づいて整理を行った。その成果については、2019年12月に開催されたドイツ史研究会にて報告した。第二に、その著作である『ドイツ国の裁判権について(Dissertatio de Judiciis Reipublicae Germanicae)』(1647年)の読解・分析を行った。第三に、2020年2月下旬よりドイツ・オランダにて、約2週間の史料調査を実施した。コンリングの著作、ならびに彼が他の学識者や書籍商と交わした書簡を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の初年度として、おおよそ順調に進展している。 先行研究における主要文献の収集・読解は、本年度でほぼ完了した。交付を申請した2019年8月の時点では、本年度の史料調査は予定していなかった。しかしながら、コンリングの著書の購買層・部数、ならびにそれに対する人びとの反響を具体的に解明するために、概要にも示したとおり、2週間の史料調査を実施した。ドイツでは、主にニーダーザクセン州立図書館ヴォルフェンビュッテル分館(Niedersachsisches Landesarchiv Abteilung Wolfenbuettel *ウムラウト非表示。以下同じ)、アウグスト大公図書館(Herzog August Bibliothek Wolfenbuettel)にて、オランダではライデン大学図書館において、史料調査を実施した。その成果として、コンリングと書籍商との間の往復書簡から、彼の著作の販売実態が明らかになった。また、オンライン公開されていないコンリングの著作、ならびに国内外の学識者と交換した書簡や論文の収集ができた。 コンリングの著作である『ドイツ国の裁判権について』であるが、本年度で読了することはできなかった。しかし本書は大部なものであり、かつそこに引用された文献を参照する必要があることから、進捗については想定の範囲内である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は作業のほとんどを、関連文献、ならびに活字史料の読解にあてたため、その成果を発表する機会が少なかった。次年度については、引きつづき、コンリングの著作である『ドイツ国の裁判権について』、ならびに今年度末に収集した手稿史料の読解と分析を進め、その成果を論文として公表したい。 それに先だって、わが国ではコンリングに関する個別研究がほとんど存在しないため、彼の生涯や事績、近年のドイツ史学界での評価の紹介を行う。 なお申請時では、2020年の夏期に、オーストリアとドイツでの史料調査を予定していたが、新型コロナウィルスの流行により、実施できない可能性が高い。渡航を年度末に持ちこすとともに、実行できない場合に備えて、2020年度前期から、文書館に対して史料の電子化と送付を依頼する、あるいはすでにオンラインで公開されている別の史料を用いるなど、実地調査を必要としない方策をとる。
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Causes of Carryover |
40,239円の繰越金が発生した。海外での史料調査を2月下旬から3月上旬に行ったが、現地における移動費が削減でき、ならびにユーロのレートが変化したため、当初よりも旅費が抑えられた。また、本調査にかかる経費の算出が年度をまたぎ、金額が確定するまで物品の購入を控えるよう指示があったため、使用する予定のあった予算が未消化となった。繰越金については、本来購入する予定であった図書・消耗品の購入に充てる。
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Research Products
(1 results)