2019 Fiscal Year Research-status Report
The relationship between central and local authorities of the Kingdom of Hungary concerning "Gypsy" policy in the second half of the 18th century
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19K23107
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
市原 晋平 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (50842423)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 近世史 / 18世紀 / ハンガリー / 中央・地方関係 / ロマ/「ジプシー」 / マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中央集権改革が進む18世紀のハンガリー王国全土において展開された「周囲からツィガーニと呼ばれた人々」(以下「ツィガーニ」)の統制や法的・社会的「同化」を目指す諸政策の遂行実態の検討を通じて、従来対立が強調されがちな当該期中央・地方関係を、協働や調整の側面をも踏まえて再構成することを目的としている。特に、地方当局である県が中央行政機構ハンガリー総督府に提出した書簡や報告書の情報及びその情報を受けて総督府が各地に送付した指示書を分析することによって、その課題に取り組むものである。なお、「ツィガーニ」は「ジプシー」に相当するハンガリー語で、ロマ民族への蔑称とされる傾向もあるが、史料中での「ツィガーニ」という概念はロマ以外をも包含しうるため、本研究では18世紀に限りこの表現を用いる。 初年度には、史料・文献調査を2020年1-2月にブダペシュトのハンガリー国立文書館、国立セーチェーニ図書館などで実施し、『総督府ツィガーニ局文書群』(以下『DZ文書群』)などの文書館史料やハンガリー史関連文献を収集した。また、『東欧史研究』第42号 (2020年3月) への論文掲載、ハンガリー学会第8回研究大会での報告(2019年12月)の計2点が具体的な成果として得られた。以上の成果のうち、『東欧史研究』掲載論文では、総督府と県それぞれが「ツィガーニ」を統制対象として問題化する際の眼差しの共通点やズレを、ハンガリー王国北東部のボルショド県の事例を中心に、法規定、同県と他県や総督府との間の書簡の分析を通じて検討した。また研究報告では、当該政策実施期に地域的に進展した「ツィガーニ」の定住の特徴を、ボルショド県の都市ミシュコルツを事例として検討した。なお、本課題採用直前の2019年7月にも、東欧史研究会にて、ハンガリー総督府による王国規模でのツィガーニの状況把握の内実を検討する報告を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度には、本課題の更なる追求をある程度可能とする史料の一部を渡航調査において入手でき、また、本課題と関連する論文を発表できたためである。 2020年1-2月の渡航では、『DZ文書群』に収められた1770年代から80年代にかけてハンガリー総督府に各県から送られた各地の「ツィガーニ」の状況に関する報告書や書簡を入手することができ、また『DZ文書群』以外のセクション(『総督府混合文書群』)に1770年代やそれ以前の「ツィガーニ」関連文書が収められていることも確認できた。 また、ハンガリー王国北東部の事例から、「ツィガーニ」統制をめぐる県や総督府などの統治権力間の関係性を検討した上記論文では、これら諸権力の間で、「ツィガーニ」に対する問題意識や統制方法のズレが18世紀初頭から1780年代まで、一定程度変化しつつも維持されていたことを確認するとともに、その一方で、王国北東部の諸県が1750年代以降行っていた「ツィガーニ」取り締まりに関する方針の共有や見解のすり合わせの内実や、その中の一県であるボルショド県と総督府との間では少なくとも1770年代後半から80年代にかけて、県の報告書提出とその情報を受けた総督府からの対応指示を通じて、両者のズレを調整しつつ政策を遂行するサイクルが成立していたことを明示した。同論文は、地域的にはボルショド県を中心としたものであるため、このような政策遂行過程が他県にも該当するかについては、その実情の検討を引き続き要することは確かである。しかし、以上の成果を考慮すると、今年度において本課題への取り組みは一定程度進展を見せている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の課題は、各地の「ツィガーニ」の状況に関して1770年代以降総督府に年二回提出されていた諸県の報告書やその他の書簡など、『DZ文書群』に収められた史料の検討を通じて、総督府が主に1770-80年代に「ツィガーニ」に関して把握しえた情報の詳細やその利用の実態を整理し、その成果を研究報告、あるいは研究論文として発表することである。 2019年度の渡航では『DZ文書群』中の関連史料を網羅的に入手するには至らなかったため、それらの史料や2019年度の渡航で新たに確認した史料の収集を目的として、今年度も引き続き年度中にハンガリーへの調査渡航を予定している。 ただし、昨今の新型コロナウィルスの流行に伴い、現時点での渡欧見通しは立っていないため、現在までに入手できた史料のみを用い、年度末までに国内学会・研究会での報告や投稿論文の形で成果をまとめることも想定している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた原因としては主に以下2点を指摘できる。 ・新型コロナウィルス流行に伴い3月に参加を予定していた学会・研究会等が中止・延期となり、そのために計上していた旅費等を使用しなかったため。 ・1-2月の調査渡航のタイミングで入手する予定だった新規デジタルカメラの購入手続きを、渡航直前の体調不良等の諸事情により見送ったため。その後、新型コロナウィルス流行の影響で外出を控えた結果、現時点でも購入に至っていないが、次回渡航までに購入を予定している。 次年度に繰越された助成金については、当初の使用目的を踏襲して、2021年度調査渡航における利用を主に想定したデジタルカメラの購入費用に充てることを予定しており、その残額は学界参加や調査を目的とした旅費に充てる予定である。
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