2021 Fiscal Year Research-status Report
列国議会同盟(IPU)と戦後日本の議員外交に関する総合的研究:国内外資料から
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19K23109
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
伊東 かおり 広島大学, 文書館, 助教 (90849902)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 列国議会同盟(IPU) / 議員外交 / 国民外交 / 冷戦史 / 議会史 / 核軍縮問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
長期化するコロナ禍で特に国外での調査が殆ど実施できない苦しい研究状況が続いたが、戦後の日本の議員外交の展開について、(1)多国間による普遍的な議員外交を推進したIPU(列国議会同盟)と1950年代にIPUに復帰した日本の関係および核軍縮をめぐる活動、(2)福永健司を中心とする1960年代の日本とIPUの関係とそこから発生した日ソ関係と1964年の訪ソ団について、主に国内の刊行物や個人資料の調査を基に、その多様な実態を検討した。 (1)では、衆参両院が各年発行した『列国議会同盟報告書』や新聞記事、参列者の体験記のほか、IPUが発行した報告書や往信などを基に、戦後のIPUの活動再開の様相や国際連合との関係、日本復帰の画策と日本側の反応、国際社会復帰直後の日本議員の国際観などを明らかにした。(2)では、同様に『列国議会同盟報告書』などを基に、1960年代の福永健司の活動に焦点を当て、IPUの執行委員となった福永の、宇宙法問題をはじめとするIPU内での活動や議員外交に対する考えを明らかにすることができた。また宇宙法問題等での協議を通してソ連議員団との交流が深まり、1964年に福永を団長とする訪ソ議員団が実現したことを明らかにするとともに、IPUの特性である普遍的議員外交が、冷戦期における東西陣営を超えた交流を可能にしたことも解明した。 以上の1950~60年代の冷戦期におけるIPUと日本との関係をまとめるとともに、博士論文など戦前におけるIPUと日本の関係を論じた原稿を大幅に改稿し、2022年2月に吉田書店から単著『議員外交の世紀――列国議会同盟と近現代日本』を出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長期化するコロナ禍で、本来研究の核となるはずだったヨーロッパ、アメリカ、韓国での海外史料調査がまったくできなかったばかりか、国内の調査も研究者が居住する中国地方とその周辺がメインとなり、長期的かつ広範囲の調査を断念せざるをえない状況となった。しかし、国立国会図書館などのデジタル資料の閲覧や遠隔複写を駆使し、議会事務局が刊行した資料を読み込むことで、核軍縮問題や宇宙法など新たな研究の論点を発掘し、結果的に単著の一章としてまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を進めていくうえで、戦前に議員間交流以上の意義が見いだされなかった議員外交が、戦後急速に外交の一手段として注目されたことに疑問を感じた。その仮説として、戦前から議員外交や民間外交といった非政府外交を包括する観念であり、他方で反政府外交を標榜する観念としても用いられていた「国民外交」が、戦後吉田外交を批判する言葉として多用され、鳩山一郎や岸信介ら旧民主党系の政治家が政権を取ることで政府内に内在されていったと申請者は見立てている。今後は旧民主系の政治家や岸のあとに政権を取る吉田系の池田勇人らの「国民外交」をめぐる言説をさらに詳細に検討し、上記の仮説を検証したいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、特に国外での史料調査が充分に遂行できなかったため使用額が生じた。また国内の資料調査も例年ほど充分には行えなかった。次年度はワクチンの接種も進み5月時点では緊急事態制限等による制限も解除されているため、東京を中心に国会や議員が発行した報告書やパンフレット、旅行記などの文献資料の収集を進め、今年度に行ったデジタル資料や刊行物では補えなかった一次史料の収集を中心とする研究を遂行したいと考えている。
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