2019 Fiscal Year Research-status Report
人的ネットワークの構造からみる平安時代の社会変容―中央と地方の関係に注目して―
Project/Area Number |
19K23111
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
手嶋 大侑 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 研究員 (20843147)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 宮内庁書陵部図書寮文庫所蔵『除目申文之抄』 / 藤原伊通 / 九抄 / 年官 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、当初の計画通り、年官・年爵等と給主の所領の関係について検討を進めた。それと同時に、未翻刻史料にも目を配った事例蒐集も進めていった。その結果、関係史料に関して、計画当初には、予想していなかった成果を得ることができた。 本研究で注目した未翻刻史料は、宮内庁書陵部図書寮文庫所蔵『除目申文之抄』である。同史料は、これまでほとんど注目されずにきたものであるが(ただし、部分的な利用・翻刻はあり)、他の史料には収められていない平安中・後期における任官事例を100例以上載せるもので、その中心は、本研究課題の主要分析対象である年官事例である。こうした理由から、本研究に、同史料を活用するため、調査・分析を進めていった。調査・分析の結果、同史料は、これまで逸文しか残らず、逸書と考えられてきた平安後期の貴族藤原伊通の除目書『九抄』の「土代巻」であることが判明した。 この成果により、同史料を研究へ活用することが可能となり、本研究課題の前進につながっただけでなく、除目・儀式書研究、公卿学研究などの他の研究テーマの進展にもつながるものとなった。また、同史料自体の史料的・歴史的価値を再評価するものでもある。なお、上述の研究成果は、現在、論文としてまとめ、学術雑誌へ投稿中である(同史料の調査については、一部、2019年度公益財団法人髙梨学術奨励基金若手研究助成も活用した。合わせ付記しておく)。 また、2019年度の検討対象とした高田牧について、今まで無関係だと思われていた年官事例と高田牧の関係が浮上した。これは、『除目申文之抄』所収事例により、藤原実資が花山上皇の別当を務めていたことが判明したことによるが、こうした成果によって、高田牧をめぐる人的ネットワークの様相が徐々に明らかになってきた。これについては、まだ活字化する段階には至っておらず、2020年度も引き続き検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、当初の予定より、やや遅れていると評価される。その理由は、事例蒐集を進める中で検討した宮内庁書陵部図書寮文庫所蔵『除目申文之抄』が、これまで逸書と考えられてきた除目書『九抄』だと判明し、その検討・分析および論文化に予想以上の時間を費やしたため、予定していた牧跡地の現地踏査を実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度の計画内容のうち、まだ遂行できていない牧跡地の現地踏査を夏季休暇を利用して実施する。文献史料の分析については、計画通り実施していく。
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Causes of Carryover |
当初計画していた牧跡地の現地踏査を実施できなかったため。2019年度に使用できなかった助成金を使用して、2020年度に繰り越した現地踏査を実施する。
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