2019 Fiscal Year Research-status Report
エジプト中王国時代における装身具のカテゴリと葬送儀礼行為の研究
Project/Area Number |
19K23115
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山崎 世理愛 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (50844164)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | エジプト中王国時代 / 葬送儀礼 / 副葬品 / 装身具 / 木棺 / オブジェクト・フリーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、エジプト中王国時代の木棺に描かれたオブジェクト・フリーズと呼ばれる装飾帯の分析を中心に実施し、当時の葬送儀礼の中で装身具がどのように捉えられていたのかに迫った。また、オブジェクト・フリーズのデータベースを拡充させるため、ライデン大学オランダ近東研究所にて資料調査を実施した。 具体的には、オブジェクト・フリーズに描かれた装身具類全体の検討に加え、各装身具の図像表現、名称・素材・配置場所を重点的に分析していく方法もとり、特にセウェレトという名称が与えられた赤色樽形ビーズの理想的な儀礼利用について追究した。また、オブジェクト・フリーズにおける図像表現と文字ラベルの対応関係を分析すると、同様の図像表現であっても名称や配置場所が異なる場合があることが分かり、それらを精査することで当時の赤色樽形ビーズに対する分類認識の復元も試みた。こういった分析結果を踏まえ、さらに実際の考古資料との比較も実施した。まず、未盗掘墓を対象とし、実際の紅玉髄(赤色)製樽形ビーズの儀礼利用について出土コンテクストを重視して検討した。そして、オブジェクト・フリーズに示された赤色樽形ビーズの理想的な儀礼利用との類似点・相違点を抽出し、その背景を考察した。 研究成果は、「エジプト中王国時代における赤色樽形ビーズの分類と利用」として『史観』第182冊, pp.86-109(早稲田大学史学会, 2020年)に投稿し掲載された。また、これまでの研究成果を改めて見直し、総説「古代エジプトにおける装身具の葬送利用」を『月刊考古学ジャーナル』2020年5月号に投稿した。さらに、国際学会において“Adorning the Deceased: Middle Kingdom Jewellery in Object Friezes and in Reality”を口頭発表するとともに、海外の研究者と意見交換をかわした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点では、本研究課題は順調に進んでいる状況で、オブジェクト・フリーズと考古資料の分析をバランスよく実施することができていると言える。ただし、オブジェクト・フリーズに描かれた装身具1点1点を精査し、文字ラベルに示された名称・素材・配置場所等をデータベース化するには予想以上の時間と労力を要している。次第に作業速度は上がっているが、精度を落とさず引き続き進めていく必要がある。 対象資料については、海外研究機関における資料調査により、オブジェクト・フリーズのアーカイブ写真を全て集成することができた。さらなる資料集成として、海外の博物館を訪れ、カラー写真による記録を充実化する必要があるが、当該年度はアメリカにおいて複数の美術館で資料調査を実施できた。 研究成果の公開についても、論文、総説、学会発表と様々なかたちでおこなうことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続きオブジェクト・フリーズと考古資料の分析を行い、比較していく計画である。約80点の木棺に描かれたオブジェクト・フリーズを集成済みであるが、1点の木棺に100点以上の器物が表現されている場合もあり、そのデータベース化には膨大な時間をさく必要がある。エクセル、イラストレーターなどを利用して迅速に作業を実施していく。さらに、オブジェクト・フリーズに描かれた装身具を個別に検討するとともに、木棺1個体における装身具の組成についても分析し、装身具の儀礼利用上の理想をより具体的に復元していく予定である。木棺の年代・所有者等の情報をまとめたデータベースはすでに作成済みであり、地域や時期差といった点にも注意しながら考察をしていく。 考古資料についてはすでに対象資料を集成済みであるため、新たな発掘報告等を悉皆的に収集する。それらをもとに、装身具が実際にどのように儀礼行為に取り込まれていたのかを出土コンテクストから復元する。そのために、装身具の出土位置(木棺・ミイラ包内を含む)を重要な要素として、対象資料を定性的に記述・分析していく。 本研究課題のまとめとして、オブジェクト・フリーズの分析結果と考古資料の分析結果を比較し、装身具の葬送儀礼利用における思想と実態を考察する。また、研究成果は博士論文の一部とするほか、論文として『オリエント』(日本オリエント学会)等に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画より安価に物品を購入できたため残金が発生してしまった。翌年度分として、文房具類など研究に必要な少額の物品購入にあてる。
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Research Products
(4 results)