2019 Fiscal Year Research-status Report
New Perspectives on the "Division between Ritual and Funeral" Theory Based on Analysis of Burial Fishing Gears in the Early and Middle Kofun Period
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19K23122
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Research Institution | Otemae University |
Principal Investigator |
魚津 知克 大手前大学, 研究助成課, 主任 (70399129)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 漁具 / 副葬 / 祭祀 / 生業 / 生産 / 生産力 / 鉄器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、古墳への漁具の副葬について、前期から中期を中心に再検討を進めている。 当該年度の研究により、従来の研究ではその意義が必ずしも明確でなかった鉄製漁具の副葬意義について、古墳の立地、副葬品組成とを関連させることで、解明に向け大きな進展が見られた。たいへん興味深いのは、奈良県ホケノ山古墳のような早期古墳にも漁具副葬がなされているのだが、しばしば内陸部に立地している点である。漁具副葬の第一の目的としては、「海とのつながり」を想起させることにあって、「海」そのものを必ずしもストレートに表現する必要は無かったという点である。 これは、前期から中期にかけての首長墓の立地からも裏付けられる。各地において、相次いで海岸近くに前方後円墳や前方後方墳といった首長墓が築かれるのであるが、これらの「海の古墳」に必ず漁具が副葬されているわけではなく、むしろ、先述したように、内陸部の前・中期の首長墳に漁具が副葬される。ただし、兵庫県西求女塚古墳のように、明確に「海の古墳」と呼べる立地もあるから、慎重な検討が必要である。 本研究では、全国的な漁具副葬資料の検討から、以上のような事実を浮き彫りにしつつある。引き続き、副葬状況を中心に、前・中期古墳漁具副葬資料の集成に取り組む。 一方で、「祭と葬との分化」論の考察を基軸とした古墳時代倭王権・地方政権論の構築を進めている。現在、農具・工具・漁具を網羅し、生産用具全体を俯瞰した形で、首長層による地域経営の実態解明に取り組んでいる。また、地域社会の一般成員、とりわけ海辺に居住している構成員がいかに地域内の生業と生産とに関与していたのかについて、理論的な課題にも論及しながら、考察を深めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.前・中期古墳漁具副葬資料の再検討 前期から中期の漁具副葬資料の再検討をおこなった。令和元(2019)年度においては、群馬県前橋天神山古墳や奈良県五條猫塚古墳について関連文献を精査した。 2.瀬戸内海沿岸を中心とした前・中期「海の古墳」地域環境の調査と分析 前・中期の「海の古墳」をとりまく地域環境について、瀬戸内海沿岸を中心とした調査をおこなった。この中で、播磨西部・揖保川河口域に位置する朝臣古墳群に焦点を当て、地元研究者グループが実施した測量調査に間接的に協力した。 3.「祭と葬との分化」論の考察を基軸とした古墳時代倭王権・地方政権論の構築 古墳時代の列島各地における「祭と葬との分化」について考察を進めた。令和元(2019)年度においては、「鉄器化」と「生産力」とをキーワードとして、古墳時代社会において基盤となる生業・生産構造に首長層がどのように関与していったかを論じた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.前・中期古墳漁具副葬資料の再検討 令和2(2020)年度においても、前期から中期の漁具副葬資料について再検討を進める。今後は西日本の資料を主に対象とし、必要に応じて遺物の再実測をおこないたいところであるものの、感染症対策により、資料調査が進まない可能性が高い。その場合は、文献調査の比率を高める予定である。 2.瀬戸内海沿岸を中心とした前・中期「海の古墳」地域環境の調査と分析 今後も、前・中期の「海の古墳」をとりまく地域環境について、瀬戸内海沿岸を中心とした調査をおこなう。1.と同様に、感染症対策により現地調査が難しい状況が続いている。幸い、兵庫県域においては、「全県土分の高精度3次元データ」が本年1月に公開された。このデータを最大限活用しながら、同時代の港湾とみなされる河口デルタや潟湖、島嶼部を含めた集落遺跡や祭祀遺跡との関連を分析する。 3.「祭と葬との分化」論の考察を基軸とした古墳時代倭王権・地方政権論の構築 引き続き、古墳時代の列島各地における「祭と葬との分化」について考察を進める。本年度は、石製祭器使用の動向に焦点を当てる。ただし、考察にあたっては、基礎となる編年論の確立が必須である。本年度は、副葬された農具・工具・漁具を対象として、どのような編年の枠組みが設定可能か、綿密な議論を展開する計画である。
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Causes of Carryover |
本務の都合上、資料見学を令和2(2020)年1月~3月に予定していたものの、感染症対策によって出張・出張受入ともに事実上停止となったため、一部旅費が執行できず、次年度使用となった。 次年度においては、文献調査に重点を当てて使用する計画である。
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Research Products
(6 results)