2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K23129
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊東 さなえ 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 客員准教授 (20849608)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | ネパール / 災害 / 地震 / 文化人類学 / 災害人類学 / ネワール / 復興 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、2015年のネパール・ゴルカ地震後の復興を調査対象とし、震災を経て登場した強い権力を持つ地方自治体と、それまで人々の生活を支えてきた草の根ネットワークの相互作用に着目し、そこから、ポスト震災期ネパール社会における新たな権力のバランスと関係性を明らかにすることである。 具体的には、①新生地方自治体が既存の草の根ネットワークに与える影響、②震災復興において語られる新たな都市像およびそれをめぐる交渉 の二点を主な調査対象とする。 本年度は、主に上記②についての調査を行った。現地調査は2019年4月および8月にネパール・カトマンドゥ郡およびバクタプール郡にて実施した。4月の調査では、P村および首都カトマンドゥにおいて、震災のあった4月25日前後に儀礼や式典等が行われているかを調査した。その結果、P村では地方自治体によっても、草の根ネットワークによっても、集合的な弔いの儀礼や式典は行われていない、ということが明らかになった。また、P村内の再建家屋の数およびその大まかな間取り等について、聞き取りおよび現地調査を行った。8月の調査では、バクタプール郡B市の市役所を訪ね、副市長にインタビューを実施した。現在の復興状況や、今後の復興ビジョンについて聞くことができた。P村では、祭りの様子を観察した。 現段階の成果として、「伝統的な形での街並みや家の再建」を被災者自身も新生地方自治体の長らも語るが、そこで語られる伝統においては、景観的なもの(レンガ造りの家が立ち並ぶ街の景観、木枠の窓 など)が重視される一方で、既存の研究においてこの地域の街の構造の重要な要素であると中心部ほど聖性が高まるように精緻に構成された空間構造はほとんど語られていないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4月、8月の現地調査は予定通り実施できた。特に、B市の副市長および地元住民とのつながりを得ることができた点は大きな進展であった。また、これらの調査内容を踏まえ、研究会の発表を行い、コメントを得るとともに、それを生かして、英語論文を執筆・投稿した。以上のことから、研究は、おおむね順調に推移していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19によりネパールでは全土のロックダウンが続いている。2020年度もネパールでの現地調査を複数回行う予定であったが、状況がどう展開するか不明であるため、大枠としての調査計画は維持しつつ、ネパールのニュースやこれまでの調査対象者たちのソーシャル・ネットワーキング・サイト上での発信内容等も調査の対象とする予定である。また、アウトプットについても、学会発表の準備も進めつつ、論文執筆に計画以上に注力していく。
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Causes of Carryover |
2020年3月に予定していたフィールド調査がCOVID-19の影響により実施できなかったことで次年度使用額が生じた。この費用については、COVID-19による国内外の移動制限が解除された際に同内容の調査のために使用することを想定しているが、年度内の旅行制限の解除が難しい情勢であると判断した場合には、英語論文の校閲費用等に使用する可能性がある。
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