2019 Fiscal Year Research-status Report
現代中国の「代耕農」現象にみる移動のハビトゥスの民族誌的研究
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19K23135
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Research Institution | Edogawa University |
Principal Investigator |
川瀬 由高 江戸川大学, 社会学部, 講師 (60845543)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 代耕農 / 移動 / ハビトゥス / 非境界的世界 / 差序格局 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、申請者が2018年度から着手してきた研究課題(JSPS-18J01394)、すなわち、中国江南地域の農村において見られる「代耕農」と呼ばれる出稼ぎ農業従事者らの生存戦略についての研究を、「移動のハビトゥス」という新たな視点から展開するものである。 中国の農村地帯は現在、相次ぐ工場建設や若者の流出、高齢化の進展に起因する、農業従事者の構造変化という新たな局面を迎えている。それを端的に象徴するのが、「代耕農」、即ち外地から流入してきた農業従事者の存在である。本研究では、「代耕農」に関する現地調査を通して、中国沿海部地域の現在を端的に象徴する「よそ者」に依存した農村の存立形態について明らかにするとともに、かれら「よそ者」らの一種の生存戦略として見なしうる頻繁かつ柔軟な移動実践を「移動のハビトゥス」と概念化し記述することにより、中国の社会的動力の一端を通時的/共時的位相において探究することを目指す。 以上の研究課題にむけ、2019年度には「代耕農」現象に関する現地調査に加え、理論的枠組みに関する文献研究および学術会議等での口頭発表を行った。南京市郊外の高淳区で実施した現地調査からは、新たなタイプの「代耕農」現象が確認できた。2000年代~2010年代前半にかけて「代耕農」の送り出し社会となってきた同地域の農村では、現在、他地域からの「よそ者」の流入が目立ち始めている。しかもそれは、現地の農業従事者の高齢化と耕作の放棄の増加を背景に、農地をつぶし水産品の養殖池へと転換するという抜本的な変革を伴ったものでもあった。また、本研究の理論的枠組みに関する研究にも着実な進展があり、中国農村を「共同体なき社会」という枠組みで捉える単著の刊行を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献研究では、中国に見られる/見られた様々な移動現象との比較を通して、「移動のハビトゥス」という問題設定の妥当性について検討してきた。その成果の一部として、2019年8月には婚姻移動を扱った民族誌についての書評を発表した。また、2019年9月に実施した現地調査からは、これまでの「代耕農」の送り出し社会/受け容れ社会の地政学的布置の変化を予感させる調査データを得ることができた。さらに、2019年12月には、研究成果公開促進費の助成を得て、著書『共同体なき社会の韻律』を刊行した。本書は中国人社会にみられる特有の柔軟性や、農村という社会空間の非共同体的性格を日常的な生活場面をもとに描くことを試みた民族誌であり、本研究課題の理論的枠組みの面でも着実な進展があったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には、引き続き文献研究と資料分析を進めると共に、これまでの研究成果をもとにした口頭発表と論文の執筆・投稿を行う予定である。 また、2020年度には中国江南地方各地での更なる現地調査の実施も計画していたものの、2020年初頭から続くコロナ禍の影響により、本報告執筆時点では現地調査の目処がたたない状況にある。対応策として、研究対象地域の限定や資料分析に比重を置くことや、現地調査の実現のため、1年間の補助事業期間延長申請を行うことも検討している。
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Causes of Carryover |
2019年度の研究活動に必要となった消耗品の購入や旅費の清算を行った結果、若干の端数が発生するようであったので、無理に使用せずに、翌年度の研究活動で使用しようと考えたため。 当該金額は、2020年度において消耗品の購入で使用する予定である。
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