2022 Fiscal Year Research-status Report
Narratives of religious exclusivism produced and shared through social medias in Muslim Southeast Asia
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19K23137
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
塩崎 裕子 (久志本裕子) 上智大学, 総合グローバル学部, 准教授 (70834349)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | イスラーム / 東南アジア / 排外主義 / 穏健 / マレーシア / インドネシア / ソーシャルメディア / 言説 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、引き続き予定していた海外出張を実施できなかったため、文献およびメディアを通じて入手可能な情報に基づく研究を行った。 今年度の取り組みの新たな点は、「排外主義」について直接取り組むのではなく、逆に排外主義の問題を前提とした「穏健」なイスラームのあり方や、より多様性の共存や包摂を求める言説、あるいは実践に焦点を当てて研究を行ったところである。「穏健」について考える視点は二つあると考えられる。一つは"Moderate"「穏健」「中庸」といった言葉を使ってイスラームのあり方を考えるムスリムの言説に着目すること、もう一つはある地域や潮流に属するムスリムの言説や行動について「穏健である」と判断する、外からの視点に着目すること、の二つである。いわば内からの視点と外からの視点であるが、両者の間には相互作用が働いている。例えばマレーシアやインドネシアの政権が「穏健」であることを主張するとき、そこには「穏健」なムスリムを味方とみなして評価する外からの視点が意識されている。一方で、このような「穏健」な在り方に反対する人々が「排外主義」につながっているが、そうした排外主義的言説が支持を得るのは、単に「穏健」と立場を異にするということではなく、「穏健」であろうとする主張がイスラームを捻じ曲げて外からの「穏健」という認識、プラスの評価を得ようとしていると考えて批判するからである。今年度の研究では、このように「穏健」に焦点を当てることで、「排外」的な主張がなぜ力を持ちうるのかを分析してきた。 具体的には、インドネシア、マレーシアのこれまでの政権におけるイスラームの位置づけの変遷を確認し、穏健イスラームに関する政府の取り組みに関する文書を中心に分析した。研究成果は、口頭発表および編著書の中の執筆項目として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画書の段階で考えていた海外調査が実施できていないため、やや遅れていると判断した。しかし、日本にいてもできる研究としてやや方向性を変えて調査を進めることはできている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度には出張を実現し、排外主義の言説について現地の若者がどのような見解を持っているのかについて調査をすすめる。文献、メディアを使用した研究についても引き続き行い、特に排外主義的な言説の大きな背景となっている「保守主義的(conservatism)」言説についてより丁寧に考察をすすめる。「穏健」イスラームを目指す言説は排外主義への危機感を背景に形成されているが、「穏健」言説によって対抗しようとするより大きな状況は「保守化」と呼ばれる状況であると考えられる。「保守化」というキーワードはイスラームに限らず、さまざまな地域の政治的分析において使用されるので一見理解が容易に見えるが、イスラームについて「保守」とは何かを論じるのは容易ではない。排外主義的言説とは何か、なぜそれが支持を得るようになるのかをより明確に捉えるためには、<排外主義―保守主義―穏健>の関係性を捉えることが不可欠であるとの考えにこれまでの研究を通じて至った。 以上のことから、今年度の研究では理論的な軸としては「排外」「保守」「穏健」の繋がりを、イスラーム以外の例ともつなげながら整理したうえで、「保守」言説がどのような人々に、どのような理由で支持されるのかについて調査をすすめる。
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Causes of Carryover |
予定していた現地調査が実施できなかったため、2023年度に実施を予定しています。
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