2019 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological Research on the Commoditization, Environmental NGOs and the Pollution of Water in Peru
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19K23142
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
古川 勇気 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (90844168)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | アンデス山村 / 環境開発 / 鉱山開発 / 水場の信仰実践 / 民話 / マッピング |
Outline of Annual Research Achievements |
アンデス農村では、地球温暖化による水不足や鉱山開発による水質汚染は契緊の課題である。これに伴い、近年同地では、①自由市場での水利権の売買対象化・公共サービス化をめぐる生活変化や、②環境NGOの灌漑事業をめぐる反発、③鉱山開発に対する抵抗運動などが生じている。これらの環境社会問題はこれまで各学問分野で個別に議論されてきたが、いずれも近代化・市場経済化に対する伝統的・土着的な慣習に基づく住民による抵抗という図式が強調されている。対して本研究では、当該社会のコスモロジーに照らしてこれらの環境社会問題群を地続きに捉える視座を提起することで、従来の研究における二分法的理解を再考し、他分野の研究者と協働しながら現実的解決策を模索する基盤となる当該社会の自然観や自然-人との関係をめぐる民族誌的資料を提示する。 本研究では、上記の目的を実施するために、2019年度に次の研究方法を用いた。 ローカルな文化体系に関する調査:カハマルカ県山村の宗教的権威者(naturalista)および政治的権威者、村人への参与観察・聞き取り調査から、現地の自然-人間観について以下の3点を明らかにする。①調査村での宗教的権威者と民俗学者からの聞き取り調査から、現地の世界観、②調査村の住民からの聞き取りと参与観察から、水場に対する信仰実践、③GPS端末機器を用いて、民話・逸話の対象地をマッピング。 以上の具体的内容を実施することによって、現地の水場利用における自然景観と、信仰実践や民話をマッピングすることが可能となった。そのマッピングを通じて、現地の自然環境とその聖域に対する畏怖/利用を重ね合わせることが可能となり、自然景観とローカルな文化体系とを統合したことに意義と重要性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、2019年度の研究内容として、①調査村での水路・灌漑の利用状況と近隣トラブルの実態を明らかにする、②調査村での気候変動に対する土着知と伝統的な水の利用方法を明らかにする、③調査村での川や湖などの水場に対する信仰および実践を明らかにする。そのために2020年2月~3月にフィールド調査を実施した。 結果として、②の伝統的な水の利用方法を明らかにする点に関して、適切なインフォーマントが得られなかったため今後の課題としたい。ただし、調査方法を方向転換し、信仰実践の対象となる水場をはじめとする自然景観を、CPS端末機器によって踏査することで、現地の文化体系をマッピングすることが可能となり、別の手法によって自然景観と文化体系を結び付けることができた。また、鉱山開発による自然環境の変化や水質変化の現場を確認し、2021年度の調査でその地域から自然変化に対する在来知の変化や信仰実践への影響を考える見通しができた。 以上のように、研究計画通りに調査が進まなかった場合にも方向転換することで、2019年度の段階としては十分な成果と、次回の調査につなげる見通しを得た。そのため、上記のように「おおむね順調に進展している」と進捗状況を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、現地の自然景観と世界観に基づく宗教的実践を結び付けたが、今後の研究としては、現地の社会環境的変化と生活実践や在来知を結び付けることである。 研究方法として、2020年8月~9月にフィールド調査を実施して環境変化の実態を明らかにする。具体的な内容として、①鉱山開発による水質汚染の影響を明らかにしたうえで、会社から補償を受けつつも2012年に社会運動に向かった「怒り」の実態を解明する。②環境NGOが灌漑設備を実施する現場から、どのように反発を調整しているのかを解明する。そして、2021年2月~3月にフィールド調査を実施することで、水場などの自然環境利用方法とローカルな伝統知を明らかにする。具体的な内容として、①現地住民の水場を中心とする自然利用の伝統知を聞き取り調査および参与観察する。②水の公共サービス化以降の変化と、水の分配をめぐる近所トラブルと調整方法を解明する。 上記の調査を実施するための課題としては、現地住民の感情や伝統知をどこまで明らかにできるかである。鉱山開発の場合、2012年をピークに社会運動は下火になり、現在では表立って鉱山会社を非難する人が少なくなっている。また、調査期間に限りがある状況で、現地の伝統知に対する参与観察がどの程度まで可能か不安が残る。だが、鉱山開発の場合、現状として汚染されつつある水場があるため、その地域を足掛かりに聞き取り調査は可能であり、また、伝統知に関しては、2021年8月の段階から中期的に観察を始めればデータを収集することは可能である。さらに、現地の民族誌や考古学的研究を渉猟することで、伝統知を再考することも可能である。こうした対応の計画と現地での臨機応変な方向転換によって、今後の研究もより一層の成果を期待できるものと確信している。
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Causes of Carryover |
助成金の使用計画 ①2020年8月~9月:現地フィールド調査、②2020年10月:国際学会にて個人発表、③2021年2月~3月:現地フィールド調査および国際共同研究会。 以上の計画を遂行するために、助成金を全て使用する予定である。
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