2019 Fiscal Year Research-status Report
アオウミガメを例にした稀少動物に対する人為空間の構造的理解に向けての比較研究
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19K23144
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
高木 仁 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 外来研究員 (70851921)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 稀少動物 / アオウミガメ / 管理統制 / 空間 / ミスキート・インディアン / 全地球測位システム / 保護 / 英国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまでの申請者のカリブ海のミスキート・インディアンに対する学術調査成果を発展させるため、広く世界の大洋でどのように人々が稀少動物のアオウミガメを介した生活を営んでいるのかを、古典文献や最近の報告資料から分析する作業に従事した。上記作業によって明らかになって来たことを以下にまとめた。 1)南太平洋のパプア・ニューギニア、パラオ、マーシャル諸島、ソロモン諸島、オーストラリア北部(トレス海峡)、ミクロネシア連邦、インドネシア東部の近海域で、かなり類似性を持ったウミガメを介在した文化が存在することである。調査した文献によれば、これらの海域の民族はウミガメに対して類似した呼称を有するなど、文化的にも共通点が多い。現代のインド洋ではソマリア近海でのみ漁獲・消費が現在でも行われているが、1980年に提出された文献では、その利用は海域全体にわたっており、イスラム教徒の暮らすスワヒリ海村などでは大きな変化が生まれている可能性が示唆されることとなった。大西洋・カリブ海では19世紀の開発の中心となった英国とつながりの深い地域(ベリーズ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ)のクレオール海村や先住民の土地での漁獲が現在でも続いており、特に英領ケイマン諸島が周辺の民族へと及ぼした影響の大きさが本研究によって明らかとなって来た。 2)こうした直接的な消費地の他にも、アオウミガメの生息域や繁殖域の外の国々では、全地球測位システムを用いて、アオウミガメの回遊路や動態をリアルタイムに把握するなどの管理統制努力がみられる。南西諸島で行われているアオウミガメの保護や回遊路の把握もそうした試みの一つとしてとらえてみたい。 次年度は上記で得られた研究結果をもとに稀少動物(アオウミガメ)に対する人為空間を構造的に理解するための3次元マップの作製するなどして、新たな見解を提示していきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
3月に海外渡航を予定していたが、コロナ・ウィルスの蔓延による渡航自粛を受けて海外調査を中止し、そのため、研究資金の使用と現地調査資料の収集に遅れが生じているため、「やや遅れている(Slightly Delayed)」となっている。 ただし、一般理論化へ向けた進捗は、期待以上の成果を挙がっており、その点で大きな進展を見ている。本研究は、これまで米国の文化地理学者のジェームス・パーソンズの仕事に代表されるような熱帯地方の人間と稀少動物(アオウミガメ)を空間的に理解しようする試みの一つである(Parsons, J. 1962 "Green turtle and man" Univ of Florida Press.)。パーソンズの他にもインド洋を広く調査した生態学者のジェームス・フレーザーや、カリブ海の先駆的存在である生態学者のアーチェ・カールの研究が有名だが、そうしたこれまでの試みは全て、その文化的特徴を平面空間にて捉えようとする点で酷似していた。その点で更なる研究の余地があることが本年度の研究によって再確認されることとなった。 現代社会においてサテライト衛星を使ったアオウミガメの回遊路の解明や、航空機を用いたサンゴ礁の地形把握は極めて一般的に行われている手法であるが、それにも関わらず、これまでの試みは、そうした現代社会の科学技術や、近代的な空間把握法を加味することはなかった。それが結果的に非常に偏った見方を生み出すことになってしまっているのではないかと考えている。 次年度の研究は、本年度に得られたこうした批判的見解をさらに発展させ、海外渡航による現地調査を行い、その結果を学術成果として発信していく。そのため、研究資金の使用と現地調査資料の収集には遅れが生じているものの、研究全体としては、既存の研究とは相当に異なる結果が出せるような可能性も生まれており、大きな飛躍を得た年となった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでの熱帯地方の人間とアオウミガメの文化への理解に対して行われてきた平面空間的な理解を踏襲しながら、さらに垂直空間に対する人間文化を研究して、その理解を深めていく。 次年度の研究では、これまで博士論文にて研究してきたカリブ海のミスキート・インディアンのような関わり方を一つの属性として考える(0属性)。もうひとつは、私たちのような近代科学の技術によって支えられる文明社会に暮らし、主に稀少動物(アオウミガメ)を守り、育てながら暮らす文化を別属性として対極に置く(1属性)。 次年度の研究では、そのように人間の動物に対する関りを大きく二つに分類し、これまでの調査で得られた世界の大洋から代表サンプルを選び、そして、その空間における0属性と1属性を対比的に描写して、異なる属性が混在するような低解像度の3次元マップを作成する。これが、これまで米国の文化地理学者のパーソンズの仕事に代表されるような熱帯地方の人間と稀少動物(アオウミガメ)の空間的理解とは大きく異なる点である。 次年度は、そのように現代社会における人間の稀少動物(アオウミガメ)への関与を二分類し、そこで参照される文化情報の収集に努めていく。世界の最先端研究では、ソーシャルネットワークサービスを使って、世界各地の研究者がウミガメ類に取り付けた全地球測位システムからの情報を集めて、リアルタイムにウミガメ類が海中でどのような回遊動向にあるのかを知ることが出来るようなデータベースが作成されてており、日進月歩で新たな研究が発信されている。そうした現状を踏まえて、稀少動物(アオウミガメ)に対する人為的空間の新たな側面を発見していく作業になるだろう。 そのようして作成した3次元マップを元にして、現代社会における稀少動物(アオウミガメ)への関与又は人為的な資源利用の空間についての理解を深めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、本年度3月に予定していた海外渡航がウィルスの蔓延によって中止になったためである。 使用計画として、本年度に中止になった海外調査は次年度に繰り越し、生じた次年度使用額はその海外渡航にて使用する。本年度に中止になった海外調査は英国に赴いて、19世紀の大英帝国における植民地産業に関する文献を調査・収集することが目的であったため、これを次年度にスライドさせて、その研究を遂行するための旅費や調査助手への謝金に次年度使用額を当てる(103万4,520円)。また、次年度の海外渡航は、研究の進捗に合せて、英領ケイマン諸島、米国のフロリダ半島及びミスキート・インディアンの暮らす東ニカラグアを中心に行っていく。この海外調査で翌年度分として請求した助成金を主に使用していく(100万円)。次年度は海外渡航の他にも、稀少動物に対する人為への空間理解を促進するために必要な3次元地図の作成を予定しており、そのために必要な消耗品・物品などの出費も予定している。 次年度は以上のような研究計画であるが、2020年6月の時点でウィルスによる海外渡航自粛は続いており、その影響から渡航を予定している国々では制限を解除していない。そのため海外渡航の目途は未だ立っていないのが現状であるため、研究期間の延長申請も視野に入れていく予定である。
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Research Products
(6 results)