2020 Fiscal Year Research-status Report
アオウミガメを例にした稀少動物に対する人為空間の構造的理解に向けての比較研究
Project/Area Number |
19K23144
|
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
高木 仁 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 外来研究員 (70851921)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
Keywords | 稀少動物 / アオウミガメ / 管理統制 / 空間 / ミスキート・インディアン / 全地球測位システム / 保護 / 英国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度から引き続き、申請者のこれまでのカリブ海のミスキート・インディアンに対する学術調査成果を基礎として、それと密接な関係を持ってきた19世紀・20世紀のイギリスによる開発を例にして、近代的な科学技術を用いた私たちの生物科学的な知見がどのようにそれと対比できるのかについて研究をおこなった。 本年度研究に至る前、フロリダ大学のアーチエ・カール生態学研究所にて研究成果の発表をさせていただき、その時に古典的な海亀の生態研究や保護の調査技術(個体への標識づけ)に触れた。本年度はカリフォルニアを中心に研究しているグループにコンタクトを取り、彼らの行っているより電子的でリモートでの管理コントロールを可能にしている最先端の全地球測位システムやSNSを用いた3D追跡調査についての教示を得て、近代的な科学技術を用いた私たちの生物学に対して更なる理解を深めることが出来た。 本年度は渡航自粛を受けて、海外での学術調査は見合わせたが同じく人類史上における有益動物の文化誌(海亀・金魚・ラクダ)を研究している学者らと協力して特集を組んだり、他の動物にはない空間的広さを持った海亀の管理コントロールの特性を学ぶなどして、極例として対置されるミスキート・インディアンの民族誌の重要性を再確認することも出来た。 本年度はまた、オセアニアにおける考古学(ピーター・ベルウッド著(1989)『太平洋 東南アジアとオセアニアの人類史』)及び古典的な民族誌(松岡静雄著(1927)『ミクロネシア民族誌』)を中心にして文献研究をおこない、特に顕著な物証が残っているラピタ文化遺跡での研究や、東ミクロネシアのシャウテレウル王朝時代に、研究対象としている稀少動物の複合的な人為空間での管理コントロールと類似した状況にあった可能性を確認することが出来た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度もコロナ・ウィルスの蔓延によって海外調査が制限されることになったため、本研究の目的である大航海時代以降の英国人による開発史に関する現地資料の収集には至っていないが、2019年から行っている図書館をベースにした文献研究によって大まかな潮流をとらえることが出来たので、進捗状況はおおむね順調としている。 また、本研究で把握しようと試みている近代的な科学技術を用いた私たちの生物学的な動物保護の知見(海亀の空間的な管理統制)についても、他の稀少動物(海亀・金魚・ラクダ)の文化誌の研究者らと特集を組んだり、研究協力を行うなどして一定の成果が上がってきた。また、海外の生態学者から最先端の技術について教示を得て理解を深めることが出来たなど一定の成果を得ることが出来たと考えている。 本研究遂行の途中で考古学研究と接点を持つ機会にも恵まれたことも大きかった。印東道子著(2017)『島に住む人類』の中で、「海亀の肉は陸上動物の肉のように高い価値を持ち、栄養に富んだ内臓や卵、脂肪などが住民に分配される。まさに海から獲得した獲物なのである」という記録が残っている。こうしたオセアニアでの近年の研究を頼りに、ミクロネシアやメラネシアにおける考古学文献を調査を行ったところ、高度に発達した考古遺跡や居住跡からも、ミスキート・インディアンの民族誌と同じように稀少動物(海亀)の増減や、その絶滅に向き合って暮らしていた人々がいた可能性が明らかとなった。 こうした昨今の私どもの状況と重なるようなこうした疑問点を異なる分野から得ることが出来たのは大きかったように思う。今後の研究推進に対しても大きな示唆を得ることが出来たと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、①既存のカリブ海のミスキート・インディアンに対する学術調査成果を基礎と、②本研究によって得られた近代的な科学技術を用いている文明的な私どもの暮らしに対する学術的な調査成果とを、③どのように一緒に記述していくことが出来るのかに関して研究を進めていく予定である。 ①も②はともに同時並行的に地球上で起こっている出来事であり、これまでの民族誌が対象とするような①と、昨今の科学技術論で用いられるような現代人類学の研究対象である②を同時に描くことによって、新たな発見を見出すことが出来るのではないかと考えている。 本年度の5月の時点で、コロナ・ウィルスの影響によって海外渡航は厳しく制限されており、当初計画していたような海外調査の実施は難しいと予測される。そのため本年度は①に関して、これまでの収集資料に対して再度分析をおこなう。博士論文の調査で収集した研究資料(A6・調査記録ノート)は数百枚にも及び、まだ手の付いていない調査資料も多々ある。これを再度分析し直すことで、これまでの研究にはない情報を③の同時記述の中に入れることが出来ると考える。 ②の近代的な科学技術を用いた文明下での私たちの生活記録については、まだまだ調査不足を感じる。これは海外調査に行かずとも研究が出来るため、本年度に更に研究蓄積を増やす予定である。また、②はそれをどのように記述表現するのかについても多く課題が残っており、その点についても研究を進めていく予定である。 このようにして①カリブ海のミスキート・インディアンに対する学術調査成果と②近代的な科学技術を用いている文明的な私どもの暮らしに対する研究を蓄積し、それを同時並行的に描くことが出来れば(③)、人類がいかにして地球を空間化し、動植物を私財化し、そして、それが如何に異なる文化現象として相互に映るのかといった点について興味深い視点が得られるのではないかと考えている。
|
Causes of Carryover |
本年度は予定していた海外渡航が中止となり、その代替として文献研究のための人件費及び謝金として使用したものの、旅費としていただいている助成金の多くが次年度使用額として残る結果となった。次年度も未だ海外渡航のめどが立っていない(2021年5月17日時点)。次年度は引き続き、海外渡航が可能になった場合と、そうでない場合を想定して柔軟に対応する予定である。 海外渡航が可能になった場合はこれまでの研究計画通りとして、海外での文献調査を行い、その大半を旅費として使用する予定である。一方、海外渡航のめどが立たない場合は次年度使用額として生じている金額(主に旅費)を、図書館をベースにした文献研究の人件費及び謝金や、近隣での調査研究費として使用する予定である。 どちらの計画を用いるかは現時点で判断することが難しい。これは主な海外渡航調査の時期にあたる大学の夏季休暇の前後に最終的な判断をすることになると考えている。
|