2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K23145
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山川 志典 早稲田大学, リサーチイノベーションセンター オープンイノベーション推進部門, 次席研究員(研究院講師) (20847040)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 民具 / 文化遺産 / 文化財保護 / 有形民俗文化財 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度においても、新型コロナウイルス感染症拡大の影響のため、文献資料調査を主とし、資料収集とそこからの整理・分析・考察を進めた。 「論点1 民具研究における民具の活用についての見解 」については、日本民具学会の設立、文化財保護法における民俗文化財の設置、各地での民具保存運動、民具研究に関する書籍の発刊といった動きの隆盛がみられた1970年代から1980年代初頭の民具研究のあり様に注目をした。各個の動向を整理するとともに、それぞれの関連性や現在への影響といった点についても考察した。 特に、この時期には、戦前より民具研究に携わってきた研究者や民俗学・歴史学分野の研究者だけではなく、建築学や都市計画学といった理工系学問分野からも、地域調査や生活調査の観点より民具研究へ関心が寄せられる動きがみられた。この点は、様々な分野における民具の資料としての活用可能性を考える上で重要であると考えられた。 「論点2 有形民俗文化財における活用の見解と活用事例」については、文化財・文化遺産として位置付けられた民具の活用について調べるため、自治体の文化財保護に関する構想や計画における民具の扱いに着目した。そこからは、これまで指摘されてきたように、民具の整理や保管場所の確保に主眼がおかれているものが見られる一方、近年の文化財保護の方針を受け、地域資源や観光資源的側面を見出して活用するという見解もみられた。さらに、民具を収蔵する博物館・資料館においては、SNSや動画配信によって民具の紹介や実際の使い方を発信するといった、新たな情報発信・普及の取り組みも見られ、事例として実態の把握を進めている。 このような調査と並行し、日本民俗学会、現代民俗学会、日本生活学会、神奈川大学日本常民文化研究所研究会といったオンラインの学研究会に参加し、民具研究に関する知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「論点1 民具研究における民具の活用についての見解 」については、民具研究を主導してきた研究者や日本民具学会内における見解や意見についての把握ができた。そこからは、生活史や郷土(地域)を知る資料としての使用を活用とする意見が多い傾向がみられた。一方で、学問的関心の違いや、扱う対象によっては差異もみられた。 加えて、民具の活用を民具学の枠内から捉えるだけではなく、近隣の学問分野から捉えることも進めている。具体的には、まず、民俗学における民具の位置付けの変遷の把握を進めている。さらに、歴史学、考古学、文化人類学、芸術学といった人文社会系分野、建築学、都市計画学といった理工系分野における広義での民具(生活用具)の資料的関心のあり方に着目し、その傾向を把握しつつある。 「論点2 有形民俗文化財における活用の見解と活用事例」については、文化財保護法下における民具(民俗資料、有形民俗文化財)の位置付けの変遷と、関係者による活用の見解を把握した。そして、より具体的な活用の見解や事例として、各自治体が策定した文化財保護に関する構想や計画における文化財・文化遺産としての民具の位置付けや、博物館・資料館における活用の現状について、それぞれ把握を進めている。そこでは、民具の地域資源・観光資源としての捉え直しや、生涯学習・学校教育資料としての活用の蓄積を踏まえた上でオンラインを用いた情報発信に取り組む事例もみられ、詳細の把握や比較分析を進めている。 全体の進捗としては、2020年度の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け修正した計画に則り進め、概ね想定通り進んでいる。資料収集については購入や遠隔複写、学研究会参加やヒアリング調査については、オンラインの使用等に切り替えて進めているものの、特定の博物館・資料館や大学図書館にのみ収蔵されている資料や、対面でないと実施できないヒアリング調査もある。
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Strategy for Future Research Activity |
「論点1 民具研究における民具の活用についての見解 」については、文献資料の収集と整理を進め、民俗学における民具研究の位置付けの変遷について、より詳細な把握を進める。また建築学や都市計画学といった関連性がみられた諸分野における民具(生活用具)の資料として扱いについても把握を進める。その上で、民具学、民俗学、関連諸学問分野における民具の活用についての関連性と特徴について考察する。 「論点2 有形民俗文化財における活用の見解と活用事例」については、各自治体の文化財保護に関する構想や計画における民具の位置付けについて、特徴がみられた事例を中心に、内容のより詳細な把握を進める。また、博物館・資料館での活用事例についても、情報を収集し、その整理と分析を進める。加えて、新型コロナウイルス感染症拡大の影響下で取り組みがみられたオンラインを用いた情報発信についても、実態把握に努めたい。その上で、文化財保護法、各自治体の構想・計画、博物館・資料館における民具の活用についての見解と事例の特徴について考察する。 論点1、論点2共に、必要に応じて関係者へのヒアリング調査や現地調査を行い、文献資料では不足する内容について追加調査を実施する。この点は、新型コロナウイルス感染症の感状況を鑑み、オンライン調査へ切り替えるなど、柔軟な対応を考慮し進める。 これらより、2つの論点の明らかにした上で、本研究のまとめとして、これまでどのような民具の活用の見解が持たれ、具体的な活用がなされてきたのか、あるいはなされてこなかったのかという点について明らかにし、今後の民具の活用を考える際に参照となる考察を示す。この成果については、学研究会での発表を検討している。
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Causes of Carryover |
2021年度は新型コロナウイルス感染症拡大のため、①博物館・資料館の休館、②国会図書館・大学図書館の使用制限、③対面ヒアリング調査の実施不可が生じ、旅費や謝金を使用した調査に想定以上の制限が生じた。資料収集は、入手可能な物について、購入や遠隔複写に切り替え進めた。入手に時間がかかる資料もあるため、それについては順次入手を進めている。2022年度に入り、博物館・資料館、図書館の利用条件の緩和がみられる。また、現地訪問調査についても可能になりつつある。施設の利用条件に合わせて迅速な資料収集を進めるとともに、現地博物館・資料館のみ所蔵している資料については、速やかに調査を行う。 加えて、人との対面についても条件が緩和されている。オンラインでは実施できない関係者へのヒアリング調査の必要性も想定されるため、それについては状況を考慮した上で実施し、計画を遂行する。
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