2019 Fiscal Year Research-status Report
日本中世の訴訟手続における適正さの観念と本所の機能
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19K23149
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
黒瀬 にな 東北大学, 法学研究科, 助教 (70844843)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 日本中世法 / 訴訟手続 / 公武関係 / 院政 / 本所 / 人的紐帯 / 公式・非公式 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本中世の訴訟における、〈とられるべき(正しい)手続〉に関する観念のあり方を、〈訴訟の場面において人的紐帯に付与される意義〉に着目して問い直すという課題設定に基づき、2019年度は、鎌倉時代を対象とした実証研究と、院政期(平安時代末)を対象とした分析概念整理を中心に研究を進めた。 前者は、研究発表「図書」欄に掲載の論文集においてその成果を公表した(黒瀬「優先的判断事項の争奪と出訴方法:鎌倉末期公家訴訟にみる『沙汰之肝要』設定の実態」、pp.159-204)。当該論考では、訴訟が限りなく陳情に近接し、「正則」と「逸脱」とが渾然とした日本中世においても、人々にとって「手続として正しい」という点には固有の価値があったことを提示するとともに、鎌倉時代後期における公家裁判の運営のされ方について、出訴経路となりうる様々な社会関係を当事者がいかに確保・活用するかという行動様式と、出訴先選択に関する規範認識との不一致に論及した。 後者では、正当な出訴経路とそうでない出訴経路との分かれ目に関わる重要な論点として、研究概念である「属縁主義」と「本所法廷主義」との関係を取り上げ、学説史的検討をおこなった。この作業により、両概念をめぐる近時の研究の来歴と問題点が明確化し、今後の課題の所在が明らかになってきた(成果物は2020年度に公表予定)。 上記の学説史的検討は次年度以降に鎌倉時代へと延伸し、実証的検討との接合・再考察に繋げる見通しである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.情報収集・意見交換のために出席する予定であった研究集会2件につき、2019年台風19号および新型コロナウイルス流行の影響により参加を見送った。 2.論文投稿のために必要な作業量が当初の想定よりも多くなり、2ヶ月程度余分に時間がかかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度における理論的検討の結果を公表する予定であり、それを足掛かりとして、訴訟において人的関係が重要な役割を果たすという現実を中世の人々がどのように説明しようとしたのか、その中で「本所であるか否か」はどの程度意味を持ったのか、といった点に関わる示唆を引き出したい。 また、律令官司機構と貴族の家政との関係や、鎌倉時代の御家人制の性格を、訴訟における本所の意義および機能という点から検討する。そのため、先行研究の依拠する平安後期古記録類の再検討を進めるとともに、戦前の研究を批判的に読み換える作業を実施し、荘園支配体系と主従関係との相違および両者の関連性について考察する。
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Causes of Carryover |
理由:1.学会参加の取りやめにより旅費の支出が無くなったため。 2.他の財源による購入物品・書籍を、本研究課題でも共通して使用できるケースが多くなったため。
計画:1.研究集会が開催されれば、参加費用として支出する(自身の報告を予定しているものも含む)。2.2020年度は、本研究課題の遂行に使用する書籍・資料類は基本的にすべて本科研費より支出する予定である。
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