2021 Fiscal Year Annual Research Report
日本中世の訴訟手続における適正さの観念と本所の機能
Project/Area Number |
19K23149
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
黒瀬 にな 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員 (70844843)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 日本中世法 / 訴訟手続 / 院政 / 鎌倉時代 / 本所 / 帰属と保護 / 正当化 / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
2021(令和3)年度は、以下3つの作業をおこなった。(1)鎌倉幕府御家人制論における、現在の研究到達点の確認。(2)身分論と荘園制論との接点にあたる先行研究(古典的なもの・近年のもの双方)の検討。(3)鎌倉時代の訴訟関係法令および訴訟事例の再検討。 以上により、公武関係を視野に入れた御家人制論・身分論の検討結果を成果物にまとめたほか、個々の複雑な社会関係と大局的な時代の動きとの相互規定関係の把握方法を練磨することができた。ただしいずれも、結果的には、本研究課題の目的に直接応えるという以上に、本課題終了後につながる問題発見的な成果となった。
本研究課題三箇年では、日本中世の訴訟における、〈とられるべき(正しい)手続〉に関する観念のあり方を、特に出訴の局面における人的紐帯の機能およびその法的意義に着目して問い直した。 従来の日本中世訴訟制度史研究で描かれてきた静態的制度像に対し、近年の研究はそれらを相対化・流動化する傾向にある。本研究課題でも、訴訟が限りなく陳情に近接し、訴訟当事者の行為が、出訴を助けてくれる推挙者の政治資源に期待してなされるという中世訴訟像を確認した。しかしそれにとどまらず、出訴先選択や出訴手続が決して〈何でもあり〉なわけではなく、当時の人々にとって〈手続として正しい〉こと、当該行為が〈逸脱〉でなく〈正則〉であることには固有の価値が存したという点を指摘した。 その上で、訴訟に関与する者たちが正則性ないし正当性の主張根拠を(しばしば苦心して工作しつつ)確保せんとする様子を「口実の調達」と捉え、そうした口実(正当化根拠)の主要な一つとして、「本所」への帰属関係を位置づけた。このことは、裁判原則の一つとして論じられてきた「本所法廷主義」概念を、「本所化志向」という動的観点から捉え返すことによって、従来の制度史研究と近年の実態論的研究との切り結びに道をひらくものである。
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